しゃがむ姿勢がとれなくなったとか扁平足が増えたとか日本人の身体の変化を嘆く論考はいくつもあるが、本書はその中でもとびきりユニークな身体論だ。

 まず対談に臨む著者2人が相当変わっている。ロードバイクや毛バリ釣りを通じて西洋のスポーツ科学と日本古来の身体文化を探求するエンゾ・早川。東洋医学を学び、山伏修行を続ける米国人フォトジャーナリストのエバレット・ブラウン。

 この2人が自らの知識と体験を総動員して「足」「手」「背」「尻」…と部位ごとに身体論を展開するのだが、医学や伝統文化に基づく知見以上に刺激的なのは、丁々発止の対論から軽やかに繰り出される仮説や推論だ。

 例えば小指をめぐる問答。鎌を握る時や帯紐を締める時、小指から手を握ると手首が固定されて強い力が出せる。ヤクザが小指を詰めるのは、短刀で相手に致命傷を与えられなくなるからだろう。握りこぶしなど男らしい動きはすべて小指が内側に握り込まれている。対して小指を立てるポーズは女性的なしぐさとなる――。

 肛門に関する議論。肛門への刺激は「第二の脳」と呼ばれる腸を活性化し、脳を刺激する。ヨガの精神解放においても肛門は重要な働きをする。優れた芸術家や僧侶にゲイが多いのは、男色や稚児の文化に精神開発という側面があるからではないか――。

 学術的な裏付けがなくても、あるいはこじつけやマユツバと紙一重でも、体験に基づく深読みと洞察が脳を心地よくもみほぐしてくれる。

 びっくりしたのは「猫背のススメ」だ。背筋を伸ばした姿勢よりも猫背のほうが全身の感覚が敏感になるそうだ。ボクサーやバスケットボール選手に限らず、テニスのフェデラーやサッカーのメッシなど優れたアスリートには猫背が多い。僧帽筋に負担をかけない「正しい猫背」だと肩こりからも解放されるという。

 話題は四方八方に広がり、ウンチク合戦の様相を呈するが、在野の実践家ゆえの実用的な知恵と自由な想像力にあふれる一書だ。

(晶文社 1800円+税)=片岡義博

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