【論説】女子テニスの大坂なおみ選手が2年ぶりに全米オープンを制覇した。22歳にして3度目の四大大会優勝である。偉業をたたえたい。

 人々の心を強くつかんだのは、質の高いプレーや強靱(きょうじん)なメンタルにとどまらない。決勝までの7試合全てで、米国で白人警察官らにより命を奪われた黒人の名を記したマスクを身に付けた。大坂選手を際立たせたのは、人種差別撤廃を訴える、この姿勢だ。

 大坂選手は、ハイチ出身の父と日本人の母を持ち、3歳で米国に移住した。社会に一石を投じた行動は、「マイノリティー(人種的少数派)」にある自身を鼓舞し、戦うモチベーションを支えたという。マスクを7枚用意したのも決勝まで勝ち残るとの強い意志の表れだ。率直な思いを語っている。「犠牲者の名を掲げることで、多くの人々に人種差別について議論してもらいたい。それが勝利への意欲をかき立てた」と。

 ともすれば、アスリートはパフォーマンスに集中することが自身の務めだと考えがちだ。そこに誤りはない。常人には及びも付かない技量を披露することで、人々をスポーツに、アスリートに引きつけるのだから。しかし、プロフェッショナルとは競技の世界の枠を超え、社会に訴えかける存在でもあるはずだ。

 アスリートは政治的な発言を控えるべきだとの指摘もあろうが、大坂選手が投げ掛けているのは人権への思いである。主張する権利は誰にも等しくある。

 決勝後のコート上でのインタビューで印象に残る場面があった。7枚のマスクについて、人々に伝えたかったメッセージは何だったのかと尋ねられると、大坂選手はこう切り返した。

 「あなたはどんなメッセージを受け取りましたか。皆さんがどのように受け取ったかが大切です。少しでも多くの人がこのことを話すきっかけになればいいと思います」。人種差別は米国だけに巣くう問題ではない。私たちも、その問いかけにどう答えることができるのかを考え、議論を活発化させていきたい。それが彼女の優勝を一段と意義あるものにする。

 思えば2年前、全米オープンで四大大会初優勝を遂げた当時、自身の精神状態を「赤ちゃんのよう」と例えた。精神的にもろく、安定さを欠くプレーも多かった。しかし、大きく成長した。「(犠牲者や遺族の)痛みを和らげることはできないが、必要とされるなら力になりたい」とも話す。

 人種差別を巡っては、大リーグはじめ米スポーツ界でも抗議行動を取るケースが目に付く。声を上げるアスリートとして、その中心的存在になったとさえ感じさせる大坂選手の優勝への軌跡である。

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