【論説】事実上の新首相選びとなる自民党総裁選がスタートした。ただ、原則である全国一斉の党員・党友投票は実施されず、選挙期間も投開票日を含め7日間しかない。加えて、候補者の政策を吟味する前に、最大派閥の細田派をはじめ、麻生、竹下、二階、石原の主要5派閥が菅義偉官房長官支持へ雪崩を打ち、勝敗は決したも同然の状況だ。

 議員や予備選が行われる党員はまだしも、投票権のない国民に至っては高揚感などまるでないのが現状だろう。8日に行われた立会演説会や共同記者会見を視聴した人はどれほどか。自民党内の関心は、はや総裁選後の人事に移っているという。これでは盛り上がらないのも当然だ。安倍晋三首相の突然の退陣表明という緊急時だからこそ、自民党はこの総裁選を「消化試合」に終わらせてはならず、国民の声をすくい上げる努力を求めたい。

 総裁選には石破茂元幹事長と菅氏、岸田文雄党政調会長の3人が立候補した。「安倍政権の継承・前進」を打ち出す菅氏に対し、石破氏は「納得と共感の政治」、岸田氏は「分断から協調へ」をそれぞれ訴え、憲政史上最長の安倍「1強」政治への立ち位置は分かれている。ならば選挙戦では7年8カ月に及んだ安倍政治を総括し、徹底的に討論を尽くす必要がある。

 後手後手に回ったと評される新型コロナウイルス対策をはじめ、株高・円安を生んだアベノミクスの功罪、人口減少や少子高齢化を踏まえた社会保障政策、地方創生と東京一極集中の是正など待ったなしの課題が山積している。

 暗礁に乗り上げた北方領土や日本人拉致問題、最悪の状態にある日韓関係、強化の一方で高額防衛装備品の購入などが続く日米同盟、米軍普天間飛行場の移設を巡る沖縄県との対立など、外交・安全保障の懸案もめじろ押しだ。

 とりわけ、森友、加計学園問題や桜を見る会など安倍政治の負の側面にも向き合う必要がある。さらに、行政監視機能を担う国会の軽視、公文書の改ざん・廃棄といった民主主義の根幹を揺るがした問題については3候補のみならず、個々の議員、党員も真摯(しんし)に振り返るべきだろう。

 1955年の自民党立党宣言の書き出しには「政治は国民のもの」とあり、現行綱領もこれを引き継いでいる。今回の総裁選では、立党の原点である国民目線をいま一度確認しなければならない。簡略の選挙となった上に街頭演説なども行われないというが、3候補にはこの視点に立った骨太の論戦が求められている。派閥の主導権争いなどに終始するなら、次期衆院選での国民の反発は不可避と覚悟すべきだ。

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