高校スポーツの中でも、とりわけ特別視されることの多い高校野球。テレビで1回戦から放送される甲子園の試合を見ていると、選手たちのひたむきなプレーに心打たれるが、一生懸命なのは他の競技でも同じはずだ。なのに高校野球の何がそんなに人々を惹きつけるのか。今回のトークイベント「ゆるパブオフ会」では、高校野球部OBの方々に集まってもらい、野球との結びつきについて語ってもらった。そこからは生き方のよりどころとしての野球の存在が見えてきた。

■切っても切れない関係

 甲子園出場経験のある福井県内の40代男性は小学3年生から父親のすすめで野球を始めたという。少年野球団の監督が怖くて最初はいやいや通っていたが、小4のときに甲子園の試合を見たことで、自らもと甲子園にあこがれを持った。野球と関わり、かれこれ32年。野球とは「切っても切れない関係」だ。

 「甲子園で勝つことよりも出ることに重きが置かれていると思うんですけど、甲子園に出るってどういう気持ち?」。若新さんからの質問に「県代表という意識はあんまりなかったですね。どちらかというと甲子園でプレーすることが大事。100回ぐらい甲子園続いてますけど、マスコミを通じてそれを見て、あの舞台ですることが高校球児のあこがれというか。そうインプットされていますね」と語った。

 ただ、「小学4年生の頃と同じくらい、高校の時に甲子園に行きたかったかというと、そこまででもなかった。。監督や練習が厳しいとか、自由がないし」とぽつり。早く引退したいという気持ちになったこともたまにあったという。もうやめたいという気持ちとの葛藤を抱えて3年間を送ったが、大学、社会人になってもやめることはなかった。まさに切っても切れない関係だ。

■野球が人生の中心

 甲子園とはあまり縁のなかった高校野球部OBにとって野球とはどういう存在なのだろう。県内の高校野球部OBの20代男性は野球を「人生の選択肢は常に野球中心だった」と明かす。高校は強豪校を目指すも実力不足を感じあきらめたが、強豪校監督の母校を選択。その後の進学も就職も振り返れば野球が中心だったという。甲子園を目指していたが、最後の大会は1回戦敗退。野球はもうあきらめようと考えたが、結局大学も野球部に入部。就職先も野球が続けられることを優先した。「常に勉強⇒野球⇒勉強⇒野球の毎日だったので、それを崩したくなかった」。野球はもう、人生になくてはならないものになっていた。

 野球とは高校で縁を切ったOBもいる。新潟県内の進学校である高校で野球部に所属した20代男性は、部活が年々苦痛になっていったという。監督から「進学校なんだから考えて練習しなさい」と言われ、効果的な練習方法に考えを巡らす日々。厳しい監督を気にして自分たちがしたい練習ではなく、「監督に怒られないようにする」ことが優先事項になり、やる気をなくした部員のモチベーションを維持することにもうんざりするようになった。

 千葉県内の高専で野球部だった20代男性は小学校、中学校と野球を続けてきた流れで野球部を選んだ。「(野球部って)なんかすんごい縛り付けてくるんですよ」。球児時代を振り返る表情はあまり楽しそうではなかった。「他にいろいろとやりたいことがあった…」。その葛藤との毎日だったようだ。都内の高校で白球を追う日々を過ごした別の男性は、野球を「呪縛」と言い切った。

■人生のよりどころ

 野球部との向き合い方に「グラデーション」は見られたが、高校時代は日焼けが嫌とのことでテニス部を1年で退部した若新さんにとって新鮮に映ったのは、野球に心血を注いできた人たちと野球との密接な関係だ。それを「まるで信仰のよう」と表現した。「信仰=人知を超えた何かを偶像化し、人生のよりどころにすること」と考えれば、信仰と言えるというのが若新さんの印象だ。

 「人生って正解が分からないじゃないですか。今ってどんな職業にもつける可能性が広がったし、昔に比べると、どの地域の学校に通ってもよくなったり、自由になった。ただ、自由になって選択肢が増えて、どれが正解なのって迷っている人も多い。可能性が広がれば、自分にぴったりの職業に就けるかといったら、そうとも言い切れなくて、本当にこの仕事、学校で良かったのかと迷っている人が多い中で、野球で人生を決めていければ、とりあえずうまくいく。野球をしていれば人生が空虚にならないし、一生の友達もできる」

 野球部であれば練習の毎日で、放課後や休みの日は何をしようか考える余地もない。髪型も丸坊主で自由はない(今はそうでもないが…)。自由すぎて何をすればいいのか迷ったとき、野球は生き方を否応なしに決めてくれる。それは信仰に似ているというわけだ。

 野球部OBにとって信仰という捉え方は意外だった様子。ただ30代男性は「確かに野球をやめたとき、何をしていいか分からなくなった」とぽつり。別の40代男性は「高校時代、野球部を引退したあと他の高校生がしているように駅前に遊びに行ったり、髪を伸ばしたりしたけど、何が楽しいか分からなかった」と振り返った。

 プレーを楽しむだけでなく、行動規範や生き方まで広く教えてくれる。さらにOBたちに話を聞けば、「野球部を経験して世の中の理不尽なことや社会の厳しさにも耐えられる忍耐力が身に付いた」という。そんな野球の万能性が魅力なのかもしれない。


 

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