【越山若水】「“誰もがやること”これが難しい」―。個性派俳優として活躍した樹木希林さんが語っていた。お茶を飲むとか、水をくむとか、日常のしぐさの中で、この人は短気だとか、意地が悪いとか性格を表現するのは難しい。とはいえ、それを見事に演じきったのが樹木さんだった▼一昨年9月に75歳で亡くなり2年になるが、冒頭の言葉などを収録した「一切なりゆき」(文春新書)は今も売れ続けている。借り物でない、生き方そのものから発せられた言葉の数々。がんという病でさえ前向きにとらえ、勇気づけられた人も多かろう▼樹木さんの俳優人生や私生活を紹介する展覧会が福井市の西武福井店で開かれている。ロックンローラーの内田裕也さんとの型破りな夫婦生活など、多面的な「希林ワールド」が垣間見える▼自宅をイメージしたコーナーには愛用品が並ぶ。「モノを持たない、買わないという生活は、いいですよ」との言葉通り、シンプルな暮らし。手製のティッシュケースやマイ箸に人柄がしのばれる▼樹木さんの遺品から「見せるのではなく、自分を出すのではなく、心を込めて、無念の魂を鎮めていただくように演じる」と記したメモが見つかった。この義母の言葉を胸に、本木雅弘さんは大河ドラマ「麒麟(きりん)がくる」で斎藤道三役を演じた。道三の魂に寄り添い、樹木さんが乗り移ったような名演であった。

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