長年にわたる誹謗中傷で精神的ダメージを受け「衝動的に書き込まないで」と訴える女性=6月、福井県内

発信者情報の開示請求などの流れ

 新型コロナウイルスや女子プロレスラー木村花さんの死去をきっかけに、会員制交流サイト(SNS)などインターネット上での誹謗(ひぼう)中傷が全国で社会問題化している。心ない言葉は鋭い凶器になり“指殺人”とも言われる。長年にわたり誹謗中傷を受けた福井県内の女性は「言葉の先にいるのは生身の人間。衝動的に書き込まず、一度立ち止まって考えてほしい」と訴える。

 女性は3年以上、掲示板で誹謗中傷を受け続けた。名前を特定するようなコメントや家族の情報、時には脅迫めいた書き込みもあった。「事実から、根も葉もないことまであらゆることを書かれた」。常に監視されているように感じ、目の前を通り過ぎる人や車の運転手が全て怪しく見えた。

 掲示板を見ないでおこうとも思ったが「何を書かれているのか怖くて、確認するしかなかった」。書き込みの内容はエスカレートしていった。団体の集まりに行けば、自分のことを見てひそひそと話している気がして、外に出るのが怖くなった。

 次第に眠れなくなり、睡眠薬を飲むようになった。寝れば何も考えずに済むと思ったが、ひどい書き込みを見てパニック状態になる夢を見ることも多かった。食事をしても砂をかんでいるようで味がしなかった。

 ネットに詳しい弁護士に相談し、書き込み内容を見てもらった。女性は「どこまでが許され、どこからが許されないのか。状況を判断してもらうだけで気持ちが少し落ち着いた」。その後、1年ほどかけて掲示板の運営会社やネット接続業者(プロバイダー)に情報開示請求して投稿者を割り出した。怒りや安堵(あんど)、いろいろな感情が入り交じり、涙が止まらなかった。

 投稿者とは示談になったが、その後も激しいめまいに襲われたり、気分の上がり下がりが続いたりして仕事には就けていない。外出先から家に戻る時は、人に見られていないか周囲を確認する癖が直らない。示談で慰謝料を受け取ることはできたが「被害は誹謗中傷を受けている時だけじゃなく、心の傷はずっと残る。自分自身が同じことを書かれたら、平常心でいられますか?」と問い掛ける。

 情報開示は2002年施行のプロバイダー責任制限法に基づき求めることができ、県内を含め全国で請求や開示の事例がある。しかし手間や時間、費用がかかるなどの理由から被害者が泣き寝入りしてしまうケースも少なくないという。

 女性は「表面上は投稿者は匿名のように見えるけれど、手続きを踏めば実名は明らかになる。投稿者も失うものが大きいことに気付いてほしい」と訴えている。

■インターネット上の誹謗中傷問題

 インターネット上で特定の人物などの名誉を傷つけたり、プライバシーを侵害したりすること。警察庁の統計によると、名誉毀損(きそん)や誹謗中傷に関する相談件数は2015年に1万人を超えた。福井県警の19年の相談受理件数は65件だった。

 総務省は被害者の救済や不適切な投稿の抑止を図るため、投稿者を特定しやすくするための制度見直しを進めている。情報開示対象に投稿者の電話番号を追加することを柱に、開示を迅速にする新たな裁判手続きの創設も検討している。

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