坂本信博氏(西日本新聞社編集局報道センターデスク) 

 西日本新聞社(本社・福岡市)が始めた「あなたの特命取材班」の取り組みは全国の地方紙に広がり、地域の課題解決につながる手法として注目されています。福井新聞の「ふくい特報班」もこの取り組みに参加しています。「あなたの特命取材班」の「生みの親」で、各社の連携を後押しする西日本新聞社編集局報道センターデスクの坂本信博さんに寄稿してもらいました。

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読者の「知りたい」大切に

西日本新聞社 編集局報道センターデスク 坂本信博氏

 日本で新聞が誕生したのは今から約160年前の幕末。新聞業界の現状は、各紙が部数拡張にしのぎを削る「戦国時代」というよりも、当時に似ている。江戸幕府のように長く続いた紙の新聞の足元が、インターネットという黒船の出現で揺らいでいるからだ。

 幕末は、越前、薩摩、土佐など、危機感を共有する地方の雄藩連合が新時代を切り開いた。新聞業界では今、福井新聞、西日本新聞、高知新聞など「オンデマンド調査報道(ジャーナリズム・オン・デマンド=JOD)」で連携する全国27ローカルメディアの「JODパートナーシップ」の輪が広がっている。

 JODは、無料通信アプリLINE(ライン)などを介して直接つながった読者の「知りたい」を記者が受け止め、双方向のやりとりと報道機関の取材力で疑問解消や課題解決を目指す伴走型の調査報道だ。

 加盟媒体は情報や記事の共有に加え、協働調査や連携企画も展開。新聞の発行エリアが重なる地方紙同士の連携など、業界の常識を打ち破る取り組みが進む。

 各紙がLINEでつながる読者は、延べ約7万7千人。地域や社会の課題が具体的に改善した事例も全国で相次ぐ。

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 九州のブロック紙・西日本新聞がJODをスタートしたのは2018年1月。きっかけは、読者の「新聞離れ」への危機感だった。従来の新聞は、読者が「知るべき」情報と記者が「知らせたい」ニュースに重点を置きがちだった。読者の「知りたい」にこたえられているか。寄り添えているか-。「一人を大切に」との思いで、読者とつくる調査報道を始めた。

 さまざまなスクープも生まれた。例えば、かんぽ生命保険の不正販売問題。年賀状などの販売ノルマがきつく、自腹営業で苦しむ郵便局員のことを報じる中で「保険のノルマが最もきつい。高齢者をだまして売る局員もいる」との情報と証拠を入手して記事化。日本郵政グループのトップの引責辞任につながった。

 寄せられる調査依頼には、第三者には見られないLINEならではの赤裸々で深刻な相談も多い。膨大な情報が飛び交うインターネット社会で、頼れる相談先もなく途方に暮れる人が数多くいること、地域に根ざす記者である自分たちが気付けていなかった課題の多様さを思い知る日々だ。

 新型コロナウイルス禍で対面取材さえままならなくなる中、子どもから高齢者まで幅広い層の読者一人一人と直接つながっていることは強力な武器となった。加盟媒体で連携して、コロナを巡るデマを検証し、安心を届けた。

 地方紙が本当に戦うべき相手は「他紙」ではなく、読者が抱える苦しみや地域の課題、そして社会の無関心だ。新聞ジャーナリズムの使命を果たすために読者とつながる。さらに、取材態勢も地元密着度も郷土愛も、その地域で最強のメディアである地方紙同士がつながる。JODパートナーシップの挑戦は続く。

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