【論説】記録的な大雨に見舞われた熊本県南部の特別養護老人ホームで、浸水のため14人の入所者が亡くなった。近年は地球温暖化の影響もあり、「数十年に1度」の大雨が全国各地で頻繁に観測される。高齢者をいかに守るか。福井県内でも対策を急ぐ必要がある。

 熊本県の施設は川の氾濫で浸水する恐れのある「要配慮者利用施設」。法律により避難計画の策定や訓練を義務付けられ、毎年、訓練を実施。地域住民らの協力も得て入所者を2階に移動させたり、施設外に運び出したりする手順も確認していた。それでも手の打ちようがなく、高齢者避難の難しさを浮き彫りにした。

 高齢者施設はこれまでも繰り返し災害に見舞われてきた。2009年7月に山口県で大雨により発生した土石流で特養の入所者7人が死亡。16年8月には台風10号で岩手県の施設が浸水して入所者9人が亡くなった。これをきっかけに国は17年、要配慮者利用施設に避難計画策定などを義務付けた。

 ただ、避難計画の策定済みは全国で昨年末時点で約36%にとどまる。福井県を見ても浸水想定区域で対象となる1445施設のうち、3月末現在で策定済みは約40%の571施設。熊本県の被害を受け、先の県会でも計画策定を加速すべきだとの指摘があった。

 施設は寝たきりや車いすの人など自力で動けない入所者が多く、もともと迅速な避難は厳しい。さらに想定外の事態が重なる状況もあり得る。施設同士で災害の経験を共有して計画を練り直すことが重要だ。

 熊本県では大きな川の流れが滞って支流が急激に上昇する現象「バックウオーター」が発生し、大きな被害が出たとみられている。高齢者や障害者ら災害弱者を受け入れる施設は、山際や浸水地域など危険な場所での立地も多く、これが最大の課題だ。

 九頭竜川と支流に挟まれた区域に立地している永平寺町のある特養は、熊本県で発生したバックウオーターに懸念を深めたという。この施設の避難計画に盛り込んでいる想定の浸水深は0・5メートル未満。施設2階への垂直避難で対応する計画だが「万が一の災害が起きてからでは遅い。事前の準備をもう一度整理して、できることを考えたい」と気を引き締める。

 福井県と市町は昨年度から施設の担当者を対象に講習会を開き、計画の策定を支援してきた。県は来年中の全施設での策定済みを目標としている。訓練や計画の見直しについても積極的な支援を望みたい。

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