【越山若水】世の左党が飲酒の口実として、一番に挙げるのが中国のことわざ「酒は百薬の長」である。新を建国した王莽(おうもう)が専売品の価格つり上げを憂慮し、円滑な流通を求める命令を発した▼「夫(そ)れ塩は食肴(しょくこう)の将(しょう)なり。酒は百薬の長にして、嘉会(かかい)の好(よ)ろしきものなり。鉄は田農の本なり」。塩は食事に欠かせず、鉄は農耕の基本と冷静。対して酒はどんな薬より優れ、めでたい席にふさわしいと絶賛する。以来、この格言が酒好きの自己弁護に重用された▼「酔っぱらいの歴史」(M・フォーサイズ著、青土社)によれば、世界には風変わりな飲酒スタイルがある。一般に酒は仕事が終わってから飲む。しかしエチオピアのスリ族は仕事を始める前に飲む。「酒のないところ、仕事もない」ということわざまであるらしい▼また古代ペルシャ人は重大な政治決断を行うとき、独特のルールを適用した。一度は酔っぱらって、もう一度はしらふで話し合う。両方とも同じ結論に至った場合に行動に移したという。最近の奇妙な飲酒といえば、ネットでつながる「オンライン飲み会」だろうか▼新型コロナの外出自粛で始まった仲間内の家飲みだが、第2波の懸念でさらに広がりそう。ただ気楽さゆえ飲み過ぎの恐れがある。伊達(だて)や酔狂ではなく「徒然草」にある兼好法師の忠言をお薦めする。「百薬の長とはいへど、万(よろづ)の病は酒よりこそ起(おこ)れ」

関連記事