【越山若水】明治初期に福井藩が招いたお雇い外国人グリフィスは、米国に帰国後、日本の昆虫をキャラクター化したおとぎ話を執筆した。福井と関係のある「蛍の求婚者」「脚長家の大名行列」には多様な昆虫が登場する▼福井滞在中の日記には自然に関する記述も多いが、セミの鳴き声は全く記していない。欧米ではセミの数は比較的少なく、その鳴き声も特徴的ではないらしい。これに対し日本人はセミの鳴き声で俳句を作ったり声の違いでアニメキャラクターの心情を表現したりする。昆虫モチーフのパンや和菓子も考案する▼このように、文化的側面から民族の昆虫観を探る学問を「文化昆虫学」というそうだ。1980年代に、米国で正式な学問として設立が提唱された▼日本では福井大の保科英人(ひでと)准教授が大学の授業で教え、農学博士の宮ノ下明大(あきひろ)さんと入門書「大衆文化のなかの虫たち」(論創社)を出版した。人気特撮ヒーロー「仮面ライダー」のモチーフとなった虫たちを分析したり、世界でもまれな巨大昆虫怪獣「モスラ」が誕生した背景に、蚕の存在を考えたりしている▼昆虫は地球上の生物種の4分の3を占め、生物多様性の中心である。だが人間は、見た目で昆虫の善しあしを判断する傾向がある。その重要性を認識する上で科学的な見地だけでもなく、サブカルチャーなど大衆文化からのアプローチは興味深い。

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