昨季のワールドシリーズ制覇に貢献したナショナルズのライアン・ジマーマン=ヒューストン(ゲッティ=共同)

 メジャーリーグが、開幕に向けて準備を進めている。

 7月に入ると「スプリングトレーニング」(初夏になっているが、あくまで名称はスプリング)が始まり、7月24日前後の開幕を目指している。

 試合数は通常の162試合から60試合に短縮、それにともなって選手の年俸も減額される。

 開幕に向けては、可能な限り試合を行って年俸の減額幅を抑えたい選手会側と、無観客では試合をすればするほど赤字が増えるオーナー側と間で綱引きがあったが、最終的には60試合で落ち着いた。

 例年と違うのは、シーズンが短縮されたことで、プレーオフに進出できるチームが、8球団から10球団へと増える。何から何まで異例のシーズンとなりそうだ。

 ところが、開幕を前にした6月29日、ダイヤモンドバックスのマイク・リーグ(32)、ナショナルズのライアン・ジマーマン(35)、ジョー・ロス(27)の3人が今季はプレーしない意向であることを表明した。

 ジマーマンの名前を目にした時には、正直驚いた。

 彼は2005年にナショナルズでメジャーデビューすると、それ以来、ナショナルズ一筋。フリーエージェント制によって選手の移籍が当たり前の時代にあっては、貴重な存在だ。

 彼は絶対的なチームリーダーであり、2015年のスプリングトレーニングの際にインタビューした時は、その温厚な人柄に触れ、尊敬できる選手であることを実感した。

 ナショナルズは昨年、球団史上初めてワールドシリーズで優勝。ジマーマン自身も第1戦で本塁打を放ち、長年の苦労が報われた印象だった。今季は新たに2億円を超える1年契約を結んでいた。

 しかし、新型コロナウイルス禍のなかでジマーマンは厳しい決断を下さなければならなかった。

 彼には生まれて3週間の子どもと、多発性硬化症に苦しむ母親がおり、特に母親については「スーパーハイリスク」と声明のなかで表現している。

 「いったん私がプレーし始めた場合、リスクを考慮してシーズンが終了して数週間が経たなければ、母と会えなくなることも考慮しなければならなかった」と、苦しい胸の内を明かした上で「このような状況では、正解もなければ、間違った答えもない。個人の判断に委ねられているだけだ」として、今季はプレーしない決断をしたという。

 おそらく、シーズン開幕に向け、今季はプレーしない選手がさらに増えていくことになるだろう。

 現在、本拠地が複数あるフロリダ、テキサス、カリフォルニアなどで感染が拡大しており、サラリーよりも、安全や家族との時間を優先させる選手が出てくるのは自然の流れかもしれない。

 国民の健康、そして人権とさまざまな問題を抱えるアメリカだが、それでもジマーマンの判断が尊重されるのを見ると、アメリカでは「同調圧力」よりも、選択の自由が保障されていることに安堵を覚える。

 アメリカの底力は、このあたりにあると思っている。

生島 淳(いくしま・じゅん)プロフィル

1967年、宮城県気仙沼市生まれ。早大を卒業後広告代理店に勤務し、99年にスポーツライターとして独立。五輪、ラグビー、駅伝など国内外のスポーツを幅広く取材。米プロスポーツにも精通し、テレビ番組のキャスターも務める。黒田博樹ら元大リーガーの本の構成も手がけている。

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