【越山若水】平安時代の歴史物語「大鏡」の一節。「おぼしきこと言はぬは、げにぞ腹ふくるる心地しける。かかればこそ、昔の人はもの言はまほしくなれば、穴を掘りては言ひ入れ侍(はべ)りけめ」▼高校古文の教科書にも登場し、ご存じの人もいるだろう。口語訳すればこうなる。思っていることを言わずにいるのは、本当に気持ちが悪い。だから古人は何か話したくなったら、穴を掘ってその中でしゃべったそうだ…▼あれ、どこかで聞いた覚えがある。そう、イソップ寓話(ぐうわ)でおなじみ「王様の耳はロバの耳」と瓜(うり)二つである。王様がいつも帽子をかぶっている理由を知ってしまった理髪師。固く口止めされたのに、こらえきれず井戸に向かって本当のことを叫んでしまう。洋の東西を問わず、秘密はいつか暴かれる運命にある▼昨年7月の参院選広島選挙区を巡る巨額買収事件。前法相の河井克行衆院議員、加えて妻の案里参院議員が同時に逮捕される前代未聞の不祥事である。ともに容疑を否認しているが、県議や首長ら計94人に約2570万円を渡し、票のとりまとめを依頼したとされる▼しかしここに来て、地元議員が相次いで現金受領を認める発言をしている。事の重大さに気づいたのか、良心の呵責(かしゃく)にさいなまれたのか、真意の程は分からないが、恐らく「腹ふくるる心地」だったに違いない。夫妻の外堀は確実に埋められている。

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