店内の一等地に手書きポップを添えた売り場を作った樋口麻衣さん=福井県福井市中央1丁目の勝木書店福井駅前本店

 無名の新人小説家のデビュー作が福井県で異例のヒットになっている。新型コロナウイルスの影響で書店と出版社の打ち合わせができない中、この本を売りたいという勝木書店福井駅前本店(福井市)書店員の熱意に、出版元の新潮社の編集、宣伝担当者がオンラインのリモート会議で応えた。発売前に販売戦略について意見交換し、これを踏まえた売り場作りが奏功。新潮社は勝木書店の成功事例を全国の書店に共有し、福井発の全国ヒットにつなげたい考えだ。

 「勝木書店本店文庫担当渾身(こんしん)のおすすめ‼」。熱いポップ広告とともに入り口近くの“一等地”の棚に並ぶのは、小説家葵遼太さんのデビュー作「処女のまま死ぬやつなんていない、みんな世の中にやられちまうからな」(新潮文庫nex)。6月18日現在、東京の大手書店に次ぐ全国2番目の売り上げを記録している。

 売り場を手がけたのは書店員の樋口麻衣さん。発売1カ月前にゲラで読み、不思議な読後感に魅了された。「王道の設定なのに、予想を超えて笑い、泣かされる。この本を埋もれさせるべきではないと思った」

⇒【写真】樋口さんが手がけたポップ広告

 新潮社によると、佐賀や栃木の書店員からも期待の声が届いた。新人作家では特に重視されている書店と出版社の販促に向けた打ち合わせ。コロナ禍で出向くことが難しくなった新潮社が活用したのがビデオ会議アプリ「Zoom」だ。

 本は、くすぶる若者たちがバンド結成を通じて再起を図る青春小説。樋口さんは20代をターゲットにするつもりだったが、5月下旬のリモート会議で「30~40代にも訴求できる」という担当編集者の意見を踏まえ、売り場を3カ所に広げた。会議に参加した他県書店員の感想を参考に、A4サイズのほかに「モンキーズ結成」「和久井に注目」など、ストーリーをたどる小さなポップ広告7枚を棚の上下に配置。これらがアイキャッチとなり幅広い層に訴求できたとみている。

 好スタートを切った6月上旬のリモート会議では、樋口さんがスマホを手に売り場周辺を動画で見せた。新潮社マーケティング営業本部の秋山優さんによると、セールスには売り場の立地だけでなく、隣にどんな本があるかなど複合的な要素が関わるという。「立地を立体的に取材できるのはZoomのメリット」と秋山さん。得た知見を他店に共有するつもりだ。

 7月からは樋口さんの手がけるポップ広告が全国の100書店に並ぶことも決まった。2年前には本屋大賞に推薦した折原一さんの「異人たちの館」(文春文庫)が「超発掘本!」に選ばれ、自らのポップ広告の文句が文庫の帯に採用された実績のある樋口さん。影響力は大きく、すでに書店員間ではじわじわと広まりつつある。樋口さんは「とにかく手に取ってほしい。どこかで火がつけば」と話している。

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