【越山若水】「水際作戦」と聞いて思い浮かぶのは、上陸してくる敵を海岸線で撃退する軍事戦法である。このご時世だから、病原菌が国内に入らないよう港湾や空港で行う検疫強化も考えられる▼そしてもう一つ、嘆かわしい「水際作戦」がある。一部の地方自治体で、担当者が生活保護の申請書を渡さなかったり、受理しなかったりする。要は、窓口を「水際」に見立てて受給者の増加を食い止めようとするやり方。憲法の生存権さえ無視する門前払いである▼新型コロナウイルスの影響で、解雇や雇い止めが相次いでいる。その数は厚生労働省によると、見込みも含め2万5000人に迫るという。5月下旬の集計では非正規労働者が54%を占め、企業の業績悪化を受け「雇用の調整弁」とされている実態が明らかになった▼それに連動して、生活保護の申請も増えている。中でも新型コロナの「特定警戒都道府県」の多くで、4月の件数は前年に比べ2~5割の増加。ところが生活困窮者を支援するNPOには、助け舟となるはずの申請が「水際作戦」で拒まれた事例が幾つも届いている▼生活保護の資格がある人のうち、実際に利用している人の割合を「捕捉率」という。あるデータでは、日本は2割程度、8割は受給していない。フランスの92%、ドイツの65%より極端に低い。権利の行使を排除する「水際作戦」は禁じ手である。

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