常連客の夫婦にスパゲティを出す「イタリア」マスターの宮崎又彦さん(左)と妻典子さん(左から2人目)=福井県福井市中央1丁目

 創業から間もなく半世紀を迎えるJR福井駅西口のスパゲティ・ピラフ専門店「イタリア」(福井県福井市中央1丁目)が、通称「三角地帯」の再開発事業に伴い、8月末に閉店する。店主の宮崎又彦さん(77)と妻典子さん(73)の温かい人柄と、昔ながらの懐かしい味が、世代を超えて愛されてきた。常連客の惜別の声に応え、市郊外での再出店を決意。長年変遷を見守ってきた「駅前」を後にする。

 「あーら、久しぶり」。5月末の昼下がり、丸いすが並ぶカウンターの奥から、コック帽姿の宮崎さんが笑顔をのぞかせた。訪れたのは鯖江市の男性(62)。ファン歴は高校から40年以上の常連だ。放課後の青春を過ごした店に、今は妻(56)と月1回通う。注文はいつものミートソース。「あのころを思い出すなあ」とつぶやく男性に、マスターが目を細めた。

 「イタリア」は1971年8月、現在の西武福井店新館に当たる量販店「ファッションランド・パル」(通称パルビル)に開業。脱サラして構えた3坪7席の店で、宮崎さんは夜中までスパゲティソースの改良に没頭した。赤白緑をシンボルカラーにしたハイカラな装いで、土曜日に学校を“半ドン”で終えた多くの高校生が通った。

 ユアーズホテルフクイ(5月末閉館)地下にある現在の店では、79年から営業を続けてきた。かつての高校生が子や孫を連れて来たり、県外から帰省した昔の客が真っ先に顔を出したり。宮崎さん夫婦は「常にお客さんと歩いてきた。たくさんの人生から多くを学ばせてもらった」と振り返る。

 多くの人が「どこか懐かしい味」と親しみを寄せるスパゲティ。過去には商業施設から2号店出店の誘いも受けたが、「お父さんが自分で作った確実なものを出していかなあかんよ」という典子さんの考えに、マスターもうなずいた。「拡大路線を取っていたら、もう『イタリア』はなくなっていたかもしれんよ」

 北陸新幹線県内延伸を見据えた再開発でビル取り壊しが近づき、常連客から行く末を心配されてきた。「将来を考えると大きな投資はできない」と新たなビルで再出店はしないことを決断。それでも「支えてきてくれたお客さんの要望に応えたい」と、福井市加茂河原1丁目に新たな店舗を構える予定だ。

 「駅前でどこにも負けないように誇りを持って仕事をしてきた」と宮崎さん。「どこにも負けない県に」と慣れ親しんだ街の転機にエールを送っている。

関連記事