表現の自由について話す後藤正邦弁護士=福井県福井市の高志法律事務所

 新型コロナウイルスの感染拡大によって、福井県内でもインターネット上にデマや中傷が広がった。表現の自由を守りつつ、どのように対策をすればいいのか。情報発信についての教育動画配信に取り組む福井弁護士会の法教育委員会委員長、後藤正邦弁護士に聞いた。

 そもそも「表現の自由」とはどのようなものなのか。

 権力を持つ体制側が表現を規制すると、健全な批判まで中傷とされかねないし、社会の役に立つ情報まで表に出なくなる可能性がある。一方でプライバシーの問題もある。そこで「まずはさまざまな表現を許した上で、事後的に罰則を加えたり救済を図ったりするのが表現の自由の考え方」と基本を解説する。

 現在、SNSや掲示板の中傷、デマについては、対策を求める声が上がる一方、表現を萎縮させるという懸念も根強い。懸念の声が上がるのは表現の自由は民主主義を機能させるために必要だからだ。

 例えば、18歳選挙権で若者の投票率の低さが問題となったが、政治に関心を持たせるためには「一人一人が適切な情報を入手して考えていくことが重要」と指摘する。そうした社会のさまざまな情報を得るためには、発信者側に表現の自由があることが前提になる。

 ネットが浸透する前、匿名の表現手段は多くなく、発信元は明らかだった。だからこそ不適切な表現に対しては事後的な罰則、救済もできた。表現を取り巻く状況が大きく変化する中で、ネットでの中傷やデマが問題化している。

 民事責任を問うために投稿者を特定するには、今は2回の裁判をすることが大半。まずSNS事業者に開示請求し、投稿者のIPアドレスを取得する。それを基に携帯電話会社などに氏名、住所などを開示してもらう。請求だけで任意開示されることは少なく、裁判になる。費用も時間もかさみ、負担は大きい。

 制度改正に向けた総務省の有識者検討会は、情報の開示対象に電話番号を含める方向でおおむね一致している。電話番号が分かれば、住所・氏名の開示を求める裁判を省略できる。開示の要件緩和などの議論も行い、7月に改正の方向性を取りまとめる方針だ。

■「情報」確かさには濃淡

 インターネットでは、情報を読み解く「読解力」も大切になる。

 ある投稿が「もしかしたら」と言及しているものか、「間違いなく事実」と主張しているものか。情報の確かさについて後藤弁護士は「0から100まで、その間はすごくグラデーションがある」と強調する。きちんと読み取らなければ、予測として書かれたことを事実のように捉えてしまい「デマ」が生まれる。

 新型コロナウイルスを巡っては、切り取り方によっては180度異なる主張もしばしばあったという。例えばPCR検査は拡大すべきなのか、そうでないのか。後藤弁護士は「真逆に見えても、前後の主張をよく聞いて二つの意見をつき合わせてみると同じようなところが見えてくる」とアドバイスする。

 読解力や論理的思考力を養うための教育の充実は欠かせない。法律家は論理的思考のプロ。授業に招くなど「ぜひノウハウを生かしてほしい」と呼び掛ける。

 子どもたちのスマートフォンやタブレット端末の利用については、賛否が分かれる面もあるが「これまでのように子どもも先生も持たない方向でなく、使わせながら使い方を身に付けるのがいいのでは」と話す。

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