【越山若水】「筬(おさ)の音から 筬の音から 福井は明けて 朝日織り出す日本海(中略)福井音頭は 福井音頭は世直し音頭 筬のひびきが 拍手とる」。県織物工業組合が県立こども歴史文化館の協力を得て発刊した「ふくい人絹王国ものがたり」に掲載される「福井音頭」の抜粋だ▼1933年につくられた歌で、筬とは織機の付属品の名前である。世界大恐慌では円安が追い風となり、国内の半分以上の人絹糸が福井で取引され活況を呈していた。このため東京、大阪を抑え世界初の人絹取引所が32年に開設され、景気のいい冒頭の音頭が生まれた▼人絹ブームに乗り37年人絹会館がデビューする。「福井人絹会館五十年史」などによれば建物をはじめ設備、装飾とも豪華で、後に日本建築学会から近代日本の名建築の指定を受ける。「CR食堂」の洋食は人気を集め、モダン福井の象徴となった▼戦後の朝鮮戦争では、織機が一度ガチャと動くだけで万の金が転がり込む「ガチャ万景気」に酔う。だが合成繊維が台頭してくると衰退の一途をたどり、メーンの取引所が75年に解散。会館も老朽化に勝てず83年業務を終了し、翌年解体される▼人絹をはじめ繊維産業は明治以降、一貫して基幹産業だった。子どもたちにその歴史を知ってもらう試みは貴重だろう。翻って令和の今、「福井音頭」で人絹に替わる産業は思い当たらないのだが。

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