新型コロナウイルス感染症の拡大は、教育の現場にも大きな影響を与えている。そのような中、福井県の教育委員会では「ふくいわくわく授業」として休校時の家庭学習用の動画配信を4月から開始した。一方、お茶の水女子大では、災害時に教育を途切れさせないように「どこでもできる理科実験パッケージ」を開発しており、今回、休校時の家庭学習支援としても活用を始めた。特別教室や器具を必要とする理科実験は、災害後に再開しにくく、開発された理科実験パーケッジは、安くて入手しやすい材料でどこでも実験ができる。今後、福井県でもその理科実験パーケッジの一部が利用される予定だと聞いている。ぜひ、福井の子供たちの家庭での学びに活用してもらいたい。

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 新型コロナウイルス対策は県ごとに対応が違い、県外から見ていても、福井県の動きは素早く、心強い。現在、私は松平春嶽公と橋本左内先生を全国に広めるために白鷺(はくろ)舎という団体でも活動をしているが、そのメンバーが「各県の知事の考え方や指導力が反映されて、幕末のようだ」と言っていた。幕末の福井藩では、まさに黒船来航により日本が危機にさらされた安政2(1855)年、未来を担う人材を育成するために16代藩主春嶽公により藩校「明道館」が開設された。この時期、福井藩の財政は非常に苦しかったが、春嶽公は教育を未来への投資と考え、藩をあげての重要政策と位置付けた。しかし、1年たっても成果が見られなかったため、深く広い学識を持ち、国内外の情勢にも詳しい左内先生を江戸から急きょ呼び戻し、明道館の大刷新を図った。

 まず、左内先生は、空理空論に偏っていた学問のための学問を政治や経済などに役立つ実益のための学問に転換させた。注目すべきは、洋書習学所の設置である。蘭方(らんぽう)医でもあり、西洋の科学技術にも精通していた左内先生は、開国後の日本の近代化を見据え、西洋の物理、化学、兵学、機械、物産、歴算、測量、天文、地学などを学ばせた。文武一致のための惣武芸所も設置し、洋式訓練を重視した。この時代、西洋学はまだまだ異端の学問であり、藩校の方針としていち早く取り入れた福井藩は、まさにグローバル化の先端を走っていた。一方、技術は西洋から学ぶが東洋の道徳は世界に誇れる「和魂洋才」とし、西洋かぶれを防ぐため経書(儒学の経典)を修めた者しか洋学を受講させなかった。グローバル時代にこそ自己の確立が重要ということをすでに具現化していたのだ。

 また、幼い者たちが学ぶ外塾を正式に明道館の管轄下とし、公立小学校の原型というべき、幼少時からの公的教育体制も整えた。そして、学生の表彰や恩典、他国への官費留学制度、書籍や器具の購入など、貧しくても能力があれば家柄に関わらず学問研鑽(けんさん)できるようにした。左内先生が明道館に直接携わったのは、将軍継嗣問題で江戸に呼び戻されるまでのわずか1年余りであるが、驚くべきスピードである。

 さらに、左内先生は、どのように人材を育成すべきかについても「学制に関する意見剳子(さっし)」にまとめている。まず、人材の長所と短所を知ること。次に、その人材の長所を伸ばし、短所を改めるような養成に力を注ぐこと。そして、学問と技能を教育し、能力を開花させて人材を完成させること。最後に、育てた人材を挙用し活躍させること。これらすべてが必須であり、全4カ条を実行するためには、指導者側が真の眼力、雄大な器量、卓越した見識を備えなくてはいけないと述べている。この意見書は、大学で学生指導に携わる自分にとってのバイブルでもあり、読むたびに姿勢が正される。

 幕末の頃より今まで、福井の教育力は非常に高い。ポストコロナでは、世界の構造や秩序までもが大きく変化する。左内先生のように、従来の価値観にとらわれず、あるがままの時勢の流れを的確に捉え、志すべき道を見いだし、人材を育成し、実行することが急務である。福井の子どもたちが未来を切り開く人材となることを期待している。

 ■ひがしやま・なりえ 1970年福井市生まれ。お茶の水女子大卒。東大大学院理学系研究科修士・博士課程修了。理学博士。専門は生物学。松平春嶽、橋本左内の顕彰団体「白鷺舎」副代表。藤島高の同級生と左内の歴史漫画本を出版、原作を担当した。お茶の水女子大学長補佐を兼任。旧姓佐々木

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