【越山若水】今年ほど「マスク」が注目されたことはない。もちろんツタンカーメンの黄金のマスクとか、月光仮面の覆面とかでなく、病原菌や粉塵(ふんじん)を防ぐため口と鼻をふさぐ衛生用マスクである▼言うまでもなく、年明け以降に全世界を揺るがした新型コロナウイルスの影響である。日本では2月になるとマスクの品切れが相次ぎ、消毒液やトイレットペーパーまで店頭から姿を消した。政府が配布を決めた「アベノマスク」は不良品や発送遅れで失笑を買った▼わが国のマスクの歴史を振り返ると、明治初期に工場や鉱山の粉塵よけとして開発された。ところが1918(大正7)年のスペイン風邪流行で一般向けのマスクが普及、23年の関東大震災で一気に需要が高まった。戦後になると布に代わるガーゼマスクが登場した▼近ごろはインフルエンザや花粉症対策にマスクを着用する人も増え、通勤通学の光景は世界から“日本の文化”と冷やかされた。しかしコロナ禍で事態は急変した。マスクの効果は不十分としてきた世界保健機関(WHO)は一転、公共の場での着用を推奨し始めた▼常に話題の中心になってきたマスク。今は新たな議論が沸き起こっている。というのも真夏日の時節を迎え、熱中症の危険があるからだ。マスクをすべきか、外すべきか。コロナ防止か、熱中症防止か。守るべき命は同じだけに、何とも悩ましい。

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