新型コロナウイルスの世界的流行は日常を大きく変えた。米国でも「ニュー・ノーマル」と呼ぶ新しい生活様式で、感染拡大防止に臨んでいる。だが、これまで経験のない生活スタイルの長期化が、慣例とのひずみを生み、その解決に追われる事態も起きている。

 米東部メリーランド州にある二女の高校は、3月半ばに始まった休校措置の延長が繰り返され、ついに学年が終わる6月半ばまで、リモート教育で乗り切ることになった。そのため、自宅でオンライン授業などのデジタル学習を続けるという、公教育では前例のない方法で学んだ子供たちの成績をどのように評価すればよいのか、考えなければならなくなった。

メリーランド州のショッピングモール内の広場。屋外でもマスクを着用する人や市ソーシャル・ディスタンシングを意識してベンチに座るなど「ニュー・ノーマル」を実行しながら休息を楽しんでいる=2020年6月6日、筆者家族撮影

 通常、二女の高校では、1年を4つに区切ったクォーターごとに成績(グレード)を算定している。当初、州知事による休校指示は、終了間近だった第3クォーターの残り部分のみ予定されていた。そこで、このクォーターについては、休校で導入されたリモート教育の成果も含めて、いつも通り、スコアが90%より上の場合はA、80%より上だったらBというように、A~Eまで5段階評価のグレードが付けられた。

 しかし、休校措置が延長され、リモート教育の継続も決定。郡教育委員会は、最終・第4クォーターの開始にあたり、「これまでの伝統的な5段階評価の成績は付けないで、履修科目の『可・不可』のみ判定する」と発表した。ほぼ手探りで導入せざるを得なかったリモート教育のカリキュラムで学習した生徒の習熟度を、今までと同じ手法で評価することにはためらいがあったのだろう。この“特例”の理由を「すべての生徒にとってオンライン教育がよいものとはいえない」と説明した。

 だが、この特例では、もう一つ、大きな問題が残った。米国では生徒の学力を示す場合、「GPA」(Grade Point Average)と呼ばれる、全科目で稼いだグレードの平均値を用いることが一般的だ。大学の入学選考でも重視される指標で、最も高いAにはポイントが4点付き、グレードが低くなるたび、1点ずつ引いて換算する。日本のオール5にあたる「ストレートA」ならば、GPAは4.0というわけだ。このGPAを算出するには、最終クォーターの科目についても、なんとかして5段階のグレードを導き出さなければならないという矛盾が生じた。

 そこで、郡教委はインターネット中継で議論を公開して、この難題を解決するためにひねり出した答えが、「オプションとして、グレードの成績を付ける選択ができる」。そして、グレードを選んだ場合は、「最終クォーターで『可』を取った科目は、第3クォーターよりも1段階上のグレードで評価する」―だった。

 かなり無理やり、つじつまを合わせたようにも見えるが、このやり方だったら確かに「伝統的な評価方法」でもなく、どの科目も『可』を取れさえすれば、自動的に前のクォーターより成績が上がるため、生徒や保護者から反論も出にくい。非常時で生徒が有利になるよう配慮したとも言え、結構良い落としどころだったのか、同様の方法を採用した教委がほかにもある、と聞いた。

 今回の措置はあくまで“特例”なのか、それとも、今後リモート教育が続くような事態が起きた時にはこれが「ニュー・ノーマル」となるのか…。前例主義に陥りがちな日本に比べ、非常事態にはどこか張り切って自分たちが前例を作ろうとする米国。「アメリカはやっぱり、“走りながら考える”、だね」。娘はしみじみ言った。(渡辺麻由子)

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 夫に同行し米国生活する筆者が現地の生活をつづります。子どもを通して見えてきた教育事情や働き方の違いなどを紹介します。

 ■渡辺麻由子(わたなべ・まゆこ) 元福井新聞記者。結婚を機に福井を離れ、退職。夫の留学で2012~13年米国マサチューセッツ州で生活し、帰国後フリーライター・編集者として活動。夫の転勤で18年カリフォルニア州、19年からはメリーランド州で暮らしている。ハイスクール2年生の二女と、カリフォルニア・ロサンゼルスに残り、大学に通う長女がいる。

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