新型コロナウイルスのニュースを掲載した福井新聞紙面

 福井県内の新型コロナウイルスの感染者は3、4月の約40日間でゼロから122人にまで増え、福井新聞は連日、感染拡大の状況などについて報道した。感染に関する記者の取材は相手と接触を避けるため電話などのやりとりのみとなる場合が多く、伝えられた当事者の声は限定的になった。感染拡大の抑制につながる記事や情報の提供を目指したが、感染者の関係性を示した相関図は誹謗(ひぼう)中傷を助長するという批判も受けた。本紙の取材、報道を振り返る。

■異例ずくめ

 県内で初めて感染者が確認された3月18日以降、報道のベースになったのは連日開かれた県の記者会見だった。個人の特定を避けるため発表の内容は乏しく、提供される情報は感染者の年代、性別、職業、住所(自治体のみ)、症状、発症前2週間のおおまかな行動歴などに限られた。

 感染者や最前線で対応に当たる医療従事者らへの取材は主に電話で、直接会って話を聞くことはできなかった。無料通信アプリLINE(ライン)のやりとりで記事を完成させるケースもあり、取材の手法としては異例ずくめ。その分、読者に提供できる情報は限定的になった。

 感染者に関する記事は全て匿名で、人物の特定がされないような表現に終始。クラスター(感染者集団)が発生した店名も、県の会見では明らかにされなかった。

 3月25日から20日連続で新規感染者の発表があり、県内の感染者は日を追うごとに増えた。福井新聞は関心の高まりを受け、同26日から生中継で県担当局や知事の会見を配信。5月26日までに計50回に上り、1回の動画が10万回以上の再生回数になることもあった。トータルの再生回数は同28日時点で158万回を超えた。会見の担当記者には読者から「××について質問してほしい」といった要望が入るようになった。

 地域で暮らす地元紙の記者として、一県民であることを強く意識しながら取材に当たった。紙面を通して連帯や自制を呼び掛け、医療従事者らコロナに関わる人たちには、できる限りのエールを送った。

■掲載取りやめ

 福井新聞は感染者が20人に達したことを報じた4月1日付から、感染の確認順に番号を付け、交流関係を線で結ぶ相関図の掲載を始めた。接待を伴う飲食店を中心としたクラスターであることを、視覚的に表した。

 しかし4月19日、県は会見後に、相関図の掲載取りやめを福井新聞などに非公式で要請。保健所が行う感染者の行動観察調査の支障になるとの理由だった。ある保健師は「新聞掲載を恐れ、新たな感染者は過去に誰と接触したかについて口を閉ざしてしまう恐れがあった」。取材した感染者の一人からも「相関図の連日の掲載が誹謗中傷の一因になった」と批判を受けた。

 読者からは「相関図は感染経路が分かりやすい」「感染防止につながる」といった意見も寄せられていた。相関図の在り方や是非については当初から社内的な議論が行われており、さまざまな観点から検討を続けた結果、本紙は4月26日付から掲載を取りやめた。

 感染拡大防止などを目的とした公共性と、誹謗中傷を生まないためのプライバシー保護のはざまで、どこまでの情報を読者に提供すべきか。山田健太・専修大学教授(言論法)は「新型コロナに限らず、記事化すれば必ずプライバシーの侵害が生じる。公共性、公益性とのバランスの中でケース・バイ・ケースで報道の是非を判断するしかない」と指摘。今回、コロナに関する取材手法は限定的にならざるを得なかったが、オンラインの技術が飛躍的に向上しており「今後はビデオ会議アプリ『Zoom(ズーム)』など、表情が見える手法での取材が増えていくだろう」としている。

関連記事