【論説】妊婦に出産予定医療機関などの情報を事前登録してもらい、万一の際救急車で搬送する制度を大野市が設け運用している。長らく市内には分娩(ぶんべん)を受け付ける病院はなく、積雪も多い地域で迅速に市内の妊婦を病院に運ぶ県内初の制度。安心して出産に備えてもらう取り組みとして注目したい。

 「大野市妊婦情報事前登録制度」は、母子健康手帳の申請時や申請後に、出産予定日をはじめ、出産予定医療機関や受診病院、家族らの連絡先などを記入した届け出書を市に提出する。里帰り出産のため市外で手帳の交付を受けた妊婦も対象で、同様に登録することができる。

 この妊婦の情報を大野市消防署が共有する。激しい腹痛や出血など異常時はもちろん、出産の兆候があった場合でも家族の不在やタクシー利用が困難で医療機関へ向かう手段がない場合、救急車で搬送を行う。

 もともと、緊急を要する場合は、妊婦の救急車搬送は行われている。妊婦情報の事前登録により、救急隊と病院の医師がスムーズに連絡を取り合うことができる。場合によっては医師の指示を受けながら救急車の救急救命士や救急隊員らに認められている医療的な処置を行うことも可能だ。

 同市は子育て支援に力を入れており、市と消防署との連携策を探った中で制度導入が持ち上がった。2月に運用を始め、5月中旬までに45件の登録があった。年間200件前後の妊娠届け出を考えると、今後一層の制度周知に取り組んでもいいだろう。

 市内では妊婦の診察を行っている病院はあるものの、20数年前から分娩は受け付けていない。同じ奥越エリアで隣接する勝山市内にも出産ができる医療機関はなく、大野市内から車で30分近くかけて福井市などに向かい出産するケースが多いという。

 地域医療の事情や、積雪の多い冬季を考えると、この制度は出産への安心感を妊婦に与える一つの方法として評価していい。

 消防側も日常業務の中で妊婦対応へのスキルアップに取り組んでいる。1年間の制度運用後に課題検証などを行い、よりよい制度を目指す方針だ。

 地域の医療体制を考えた際、一つの自治体ですべてをカバーすることは難しいだろう。ただ市民が安心して出産し、子育てする環境整備へ知恵を絞ることは欠かせない。4月には登録した妊婦が救急車で医療機関に向かい、無事出産したケースもあった。制度はスタートしたばかりだが、一層の充実に期待したい。

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