政府の専門家会議が5月4日に示した「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」の一部。福井県(紫色)の曲線は途中から傾きが緩やかになり、オーバーシュートを回避したことが分かる=厚生労働省ホームページから抜粋

 福井県内で新型コロナウイルスの感染者が急増した4月上旬、厚生労働省が県に対し「このままでは県内の感染者数は最悪の想定の1500人に達する」などと具体的な数を挙げて警告していたことが、複数の医療関係者への取材で分かった。県内ではその後の外出自粛や事業者の休業が功を奏し“最悪のシナリオ”には至らなかったが、国が当時、オーバーシュート(爆発的患者急増)が起こり得る危機的な状況と認識していたことが明らかになった。

⇒感染急増「恐怖感じた」と福井県知事

 国内の感染者は都市部などを中心に3月以降に急増し、政府の専門家会議は同19日に「オーバーシュートを起こしかねない」と懸念を示していた。福井県内では同25日以降、20日連続で新たな感染者が発表され、増加の一途をたどった。中でも、4月上旬は1日当たりの新規感染者が2桁に上る日もあるなど急増した。

 複数の関係者の話を総合すると、厚労省は福井県内でオーバーシュートが起これば感染者は最大で1500人に達すると試算。さらに、県内感染者が40人を突破した4月上旬には、厚労省の担当者が「このまま急激な増加傾向が続けば、県内の感染者数は最悪の想定の1500人に達してしまう」などと県に注意を促した。県側には「現実的でない数値」という受け止めもあり、その3分の1程度の500人以下を当面の目標とすることで一致したという。

 その後も県内の感染者は増え続けた。人口10万人当たりの感染者数は全国ワーストレベルで、感染症指定医療機関の病床は逼迫(ひっぱく)。県は4月7日に「緊急事態直前」を宣言、同14日には独自の緊急事態宣言を発した。県医師会は同15日の記者会見で「県と協力し(一時生活施設を含め)500床の病床確保を目指す」と説明した。この500床は県の目標を念頭に置いた数値だったとみられる。

 県が外出自粛要請を発表した4月3日時点では、杉本達治知事は会見で「(自粛要請の有無により感染者数がどれだけ変わるかという)詳細なシミュレーションはない」と説明していた。

 県内感染者は122人(5月31日時点)にとどまっている。関係者の一人は「1500人という数字は現実的ではないとも思えたが、それだけ危機的状況だった」と振り返る。別の関係者は「県民が危機感を共有し行動を抑制してくれた。濃厚接触者も自宅待機を守ってくれたため、感染が広がらなかった」と述べ、県民の行動変容が大きかったという認識を示している。

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