【論説】越前市白山地区の人工巣塔で、国の特別天然記念物コウノトリのペアから誕生したひな4羽がすくすくと育っている。新型コロナウイルス関連の沈みがちなニュースが多い中、心が和む話題だ。間近に迫った巣立ちを静かに見守りながら、これからの里山のあり方について考えてみたい。

 このペアは2016年に同市坂口地区で放鳥した雄の「たからくん」と、同年に兵庫県豊岡市で生まれた雌の「みやびちゃん」。昨年も同じ巣塔で3羽をふ化させたが、残念ながらひなはいずれも数日で死んでしまった。一方、昨年坂井市内で別のペアから誕生したひなは無事に巣立っており、「越前市でも今年こそは」と地元の人たちの期待は殊の外大きい。

 市がライブ配信している巣の映像を見ると、ひな4羽は白い羽毛が生えそろい、巣から顔を出す姿がはっきりと確認できる。もう「ひな」と呼べないくらいに大きく育ち、巣の中にいるのが窮屈そうにも見える。市や県の担当者は「順調に育っている」と慎重に観察を続けており、巣立ちは6月中旬の見込みだ。

 ここまでくるには、地元の人たちの地道な努力があった。コウノトリをシンボルに人と生き物が共生する里山を目指し、白山・坂口地区で活動が始まったのが2009年。農業者は無農薬無化学肥料の「コウノトリ呼び戻す農法部会」を結成、仲間を増やし面積を広げていった。

 それから10年余り。田んぼにはカエルの声がにぎやかに響き、小さな生き物たちが戻ってきた。コウノトリがエサをついばむ風景も、日常になりつつある。

 間もなく迎えるひなの巣立ちは、これまでの活動の大きな節目になる。ただ、少子高齢化が急速に進む中山間地域にとって、決してこれがゴールというわけではない。豊かな里山を次の世代の人たちにどう守り伝えていくか。持続可能な地域づくりを見据え、活動は新たな段階に進んでいる。

 その一つが、昨年6月に白山地区にオープンした、古民家を改装した「白山さんち」。地元のコメや野菜を使ったレストランや直売所を設け、観光客と地元住民の交流の場として活用されている。課題は、中心となって活動するメンバーの高齢化。志を受け継ぐ担い手の育成が急がれる。

 新型コロナウイルスの収束後、私たちのライフスタイルは変わっていくと思われるが、「3密」とは縁遠い里山暮らしに何かヒントがありそうだ。こんな時代だからこそ、あらためて里山の価値を再認識したい。

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