【越山若水】川柳といえば、江戸時代中期に庶民に愛好された遊戯的な文芸。俳句のような約束事がない自由さが魅力で、日々の生活を面白おかしく詠む一方、世間を皮肉る痛烈さも人気を呼んだ▼最初は興行形式で、出題された「前句」に五・七・五の「付句(つけく)」を考案し、選者が付けた得点を競い合っていた。後年は前句が省かれ、付句だけが独立したらしい。広く知られる「盗人(ぬすびと)を捕(とら)へて見ればわが子なり」の前句は「切りたくもあり切りたくもなし」である▼「誹風柳(はいふうやなぎ)多留(だる)」から一句引く。「かんざしも逆手に持てばおそろしい」。女性のかんざしは美しくかわいいイメージ。しかしそれと相反する「おそろしい」という言葉に、描かれた状況の切迫感が読み取れる。ちなみに「恨みこそすれ恨みこそすれ」が前句になる▼あっけない幕切れに、安倍晋三首相も憮然(ぶぜん)としているに違いない。定年延長してまで慰留した黒川弘務・東京高検検事長が、緊急事態宣言の最中に賭けマージャンをしていた不祥事で辞職した。定年延長は官邸の検察抱え込みが狙いだとして、世間の反発は強かった▼検察に必要な人材だからと強調した首相の国会答弁も今やむなしく響く。ゲームとしては完成度が高いとされるマージャン。しかし政治を議論する場にはあまりにふさわしくない。「恨みこそすれ恨みこそすれ」。首相のつぶやきが聞こえそうだ。

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