辞書ではあるが、冒頭から一気に読んでしまった。その後も気に入った項目に戻ってながめている。収められているのは、日常で使われる日本語のことわざ300項目に、それぞれ同じ意味を持つ海外のことわざだ。まずは「プディングの出来は食べてみて分かる」(英語)。つまり「論より証拠」ということで、さっそく幾つか引いてみよう。

 「コックが多すぎるとスープが駄目になる」は欧米に多いことわざで、日本で同じ意味のことわざは「船頭多くして舟山に上る」。これをチベットでは「音頭とりが多いと読経は大混乱」と言うそうだ。「卵の上を歩く」(フランス、イタリアなど)は日本なら「薄氷を踏む」。「飛ぶ鳥を見てコショウを挽く」(インドネシア)は「捕らぬ狸の皮算用」。土地によって説得力のある例え方が違うことがよく分かる。「高い木は風当たり強し」(オランダ)は、そう「出る杭は打たれる」。

 このように25言語・地域の6500以上のことわざが載っている。物事の道理や教訓を簡潔に伝えるのが故事やことわざだ。ぱっと通じるから使われ続けた。いわば、切れ味鋭いつわものぞろい。歴史、文化、言語が異なれば、比喩や言い回しも違う。しかしそのことわざで言いたいことは、時空を超えて案外似通っている。人が生きる上で気になるポイントは重なるものだと感心した。

人間が何に難儀するのか。言い方が違っても言いたいことは同じで、例えば「後の祭り」は「食事の後のマスタード」(オランダ)。「一難去ってまた一難」なら「フライパンから火の上に落ちる」(アラビア)といった具合。こういうのを読むとうれしくなる。

暮らしに密着した比喩も多い。「一度スープに口を焼かれた者はヨーグルトすらも吹く」(ハンガリー)は日本で「あつものに懲りてなますを吹く」。「牡牛を相手に頑張っても乳は搾れない」(ロシア)の意味は「骨折り損のくたびれもうけ」。

 「禍福はあざなえる縄のごとし」と同じ意味を、台湾では「時には星の光、時には月の光」という。「あざなえる縄」も優れた表現だが、いいこと、悪いことは交互にやってくるという人生の一つの真理を諭す時に、夜空の光を思い浮かべるのもいい。

きりがないので、気に入ったことわざで締めたい。「狼はどんなに飼い馴らしても森を見る」(ロシア)。これは何のことか。「三つ子の魂百まで」。ことわざは詩でもあるようだ。

(岩波書店 3400円+税)=杉本新

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