【論説】東京高検の黒川弘務検事長が辞表を提出した。週刊誌報道で、新型コロナウイルスの感染拡大抑止に向け外出自粛や「3密」の回避が叫ばれていた今月上旬、2回にわたり都内にある新聞記者の自宅マンションを訪れ、賭けマージャンをしていた疑惑が発覚したためだ。法の番人たる検察官、とりわけ、ナンバー2が法に触れる行為を、しかも常習的に行っていた可能性があることは看過できない。

 政府は1月末に、翌月に定年を控える黒川氏について「定年退職により公務に著しい支障が生じる」との国家公務員法の規定を適用し半年間の延長を閣議決定した。法解釈変更という禁じ手であり、野党などの反発を招いた。次期検事総長に起用するためとの見方が専らだった。

 さらに、内閣の判断で検察幹部の定年延長を可能にする検察庁法改正案を国会に提出し、黒川氏の定年延長を後付けで正当化する法改正と批判を浴びた。公正、公平さや独立性を損なうとして、ツイッターに著名人を含め数百万の抗議の投稿があふれ、元検事総長ら検察OBが相次ぎ反対を表明。政府、与党は改正案の今国会成立を断念した。

 一方で、今秋の臨時国会で成立を目指す構えで、夏の人事で黒川氏が検事総長になるか否かが焦点となっていた。その黒川氏が退いた以上、改正案は無用のものとなるはずだ。もはや国民の理解は得られない。即刻、取り下げるべきだ。検事長にとどめた安倍政権の責任も問われる。

 改正案で批判の的となるのは、内閣による検察幹部の定年延長を特例として認める規定だ。検察官は首相をも逮捕できるなど公訴権を独占し、国家公務員の中でも「準司法官」とされている。ロッキード事件など数々の政財界訴追事件も手掛けてきた。時の政権が検察幹部の人事権を握ることで、権力監視の仕組みが脅かされかねない。

 森雅子法相は黒川氏の定年延長に関して「重大かつ困難な事件の捜査と公判に対応するため」としたが、具体的な事件などは明らかにしていない。元東京地検特捜部検事らは改正案への反対意見書で「過去に幹部検察官の定年延長の具体的必要性が顕在化した例は一度もない」と記している。

 安倍晋三首相は「恣意(しい)的な人事はあり得ない」との答弁を繰り返している。仮に安倍政権ではその主張に沿った人事が行われるとしても、将来の首相や政権のことまでは保証できない。政治と検察の緊張関係が崩れ、政権の犯罪に切り込めなくなれば検察の存在意義に関わる事態ともなろう。改正案に固執し数の力で押し切ろうとすれば、政治不信は取り返しのつかないレベルに達しかねない。

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