【越山若水】検察官のバッジは紅色の旭日(きょくじつ)に、菊の白い花弁と金色の葉があしらってある。秋に降りる霜と夏の激しい日差しを組み合わせた形に似ている。厳正さが求められる検事の理想像と重なり「秋霜烈日(しゅうそうれつじつ)のバッジ」と呼ばれている▼その重責に耐えきれなくなったのか、東京高検の黒川弘務検事長がきのう突然、辞表を提出した。論議を呼んでいた検事長の定年延長問題が原因ではなく、賭けマージャンをした疑惑が週刊誌に報じられた事態を受けてのことである。なんとも情けない話だ▼本来63歳で定年退官のはずだった黒川検事長。「余人をもって代えがたい」との理由で定年延長され、検事総長のいすも目前とみられていた。だが、自ら墓穴を掘った。新型コロナ禍で緊急事態宣言が出され、国民が自粛生活を強いられている中、「3密」状態での賭けマージャンとあっては、弁解の余地もなかろう▼かつて“ミスター検察”と呼ばれた故伊藤栄樹(しげき)検事総長は「巨悪を眠らせるな、被害者とともに泣け、国民にうそをつくな」と検事たちに訓示。権力と対峙(たいじ)する毅然(きぜん)とした姿勢を示した。病床で執筆した回想録の題名は「秋霜烈日」であった▼片や、政権に近いとされる検事長の軽率な行動。信頼が失われ、政府の責任は大きい。賭けマージャンには、権力を監視すべき新聞記者も加わっていた。国民の怒りを重く受け止めたい。

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