◎大野市・提案編

 日の出とともに、「朝のまち」越前大野城下は活気づく。七間通りの中央には水路が引かれ、朝市で売られる新鮮な野菜が名水で冷やされている。周辺の旅館や古民家カフェはいずれも午前6時に開店し、朝ご飯を提供している。愛知県の「モーニングサービス文化」をしのぐ、「朝ご飯文化」の発祥地として名をとどろかせている。

 水路は湧水地「本願清水」から引いていて、夏でもひんやり。観光客が大野の名水にじかに触れ、目当ての品を水の中から取り出すスタイルが七間朝市の新たな名物となった。

 朝ご飯を提供する店は、地場産食材を使用するのが決まり。市は「市民は月3回まで朝ご飯無料」の制度を設け、観光客とともに地元の人の姿も多い。通りには、おにぎりやみそ汁をリヤカーに積んで売り歩く人が行き交う。

 七間通りと交差する寺町通りでは、それぞれの寺で「朝活講座」が開かれ、市民が出勤前や登校前に受講する。教えているのはお年寄りたち。山歩きや川釣り、郷土料理などの技を伝え、若者から「師匠」と慕われている。市全体で朝活が奨励され、職場や学校は30分間の昼寝タイムを設けている。

 「天空の城」越前大野城の見物客をまちなかに引き込むことができ、前泊する家族連れも増えて旅館は盛況だ。健康的な市民の暮らしぶりが注目を集め、都市部からの移住者も増え続けている。

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 福井県内9市の担当記者がまちの人たちと一緒にアイデアを膨らませ、空想のまちづくり事業として提案する連載。第5回は大野市編をお届けします。

 ◎大野・根拠編

 「早朝」が売りの観光資源 名水掛け合わせ誘客

 二見さん「まちなかに朝食取れる場を」
 清水さん「お年寄りの技、大事にしたい」
 野村さん「朝型の生活で夜も有意義に」

 大野市には400年以上続くとされる七間朝市や、雲海に浮かぶ「天空の城」として近年話題の越前大野城といった「早朝」がキーワードの観光資源がある。まちなかを“朝型”にして市民も引き込むことで、にぎわいにつながると考えた。朝型のイメージが定着して「大野に朝行くと面白い」と話題が広まれば、さらなる誘客も期待できそうだ。

 山に囲まれた盆地を南北方向に4本の河川が流れる大野市。地下水が豊かで、市内の家庭や事業所の7割以上が地下水を使っている。碁盤の目状の城下町は江戸時代、金森長近が大野城とともに構築。七間朝市もこのころ始まったとされる。

 朝市は今や大野の名物だが、近年は高齢化で出店者数が減少しているのが悩みの種。次の世代の人も出店したいと思えるような魅力アップを求める声は、七間朝市出荷組合の中でも聞かれる。そこで、七間通りの中央に水路を引き、朝市と「名水」という素材を掛け合わせることを検討してみた。

 長近は治水・利水にも手腕を発揮していて、当時城下町の南北方向の通りの真ん中に本願清水から上水路を引き、昭和初期まで生活に使われていたとの記録が残っている。東西方向に伸びる七間通りにはなかったようだが、とっぴなアイデアではなさそうだ。

 「朝ご飯文化」は、古民家を改装して市内でカフェを営む福井市出身の二見祐次さん(52)の案が元。二見さんは以前から、朝市や「天空の城」を目当てに訪れる観光客が市内で朝食を取れる場所がほしいと話していた。「リヤカー引いて朝ご飯売って歩いてる人がいるとか、『何それ』みたいなのが面白いよね」

 仏壇店を経営しながらイベントなどを企画する清水啓宏さん(34)は「大野は他を追いかけなくていい。おじいちゃんおばあちゃんの技とか、既存のものを大事にしたい」。妻の真由美さん(30)も「郷土料理の作り方なんかを気軽に教えてもらえる場があったらいいな」と話す。そんな思いを受けて構想したのが朝活講座。お年寄りが若者に技を教えることで世代間の交流が生まれ、健康づくり、自分磨きもできて“一石三鳥”だ。観光客も取り込めば、滞在時間を延ばすことにもつながる。

 市は、人や地域が結び付きながら生活を営んでいる姿を、「結の故郷(ゆいのくに)」というキャッチコピーで表している。2015年の国勢調査速報値で市の人口は3万3128人。しょうゆ店の6代目社長野村明志さん(42)は「大野の一番の良さは『人』」と胸を張り、「盆地という地形も相まって、みんなで何かに取り組むにはいい規模感」という。「都会と違うぜいたくな時間の流れが大野には確かにある。生活を朝型にすることで夜の時間も有意義に使えるといいね」とアドバイスをくれた。

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 ◎大野市・調査編

 大野市民と、同市を訪れる人の動きを、早朝の時間帯に重ね合わせたい。この空想のまちづくり事業にハード整備はそれほど必要ない。市結(ゆい)の故郷(くに)推進室は「大野市民はもともと、早起きに抵抗はないのでは。まちなかに出るきっかけづくりを誰が、どのようにするのかが鍵」とみる。

 東西方向に延びる七間通りの真ん中に水路を引くことについて、市湧水再生対策室は「歴史上、南北方向の通りの中央に水路があったが、これは地形的に理にかなっている。七間通りでうまく水を流せるかどうかは未知数」と指摘する。「地下水保全の観点から考えると、水を流し続けず循環させる仕組みの方が良い」との提案も受けた。ちなみに、七間通りのうち約150メートルに水路を造るとすれば、2千万円ほどかかるという。

 朝食はほとんどの市民が自宅で食べる中、朝ご飯は文化になり得るのだろうか。七間通りの隣の六間通りでコーヒー店を営んでいる牧野俊博さん(36)は以前、土日は午前8時に開店し、モーニングメニューを提供していた。だが「通りが違うからか、朝市に来る人にも営業していることに気付いてもらえなかった」。2カ月ほどで10時開店に変更したという。

 愛知県一宮市では、地元で昭和30年代から続く喫茶店のモーニングサービスを地域資源と捉え、一宮商工会議所を中心にここ10年間「一宮モーニングプロジェクト」を実施している。約100店を掲載したマップを作り、スタンプラリーやモーニング博覧会などさまざまな企画を展開。平日は地元の常連客、休日は観光客を取り込んでいる。

 大野市でも主導者を立ててまち全体でプロジェクトを起こしたいところ。同市のまちづくり会社「結のまち越前おおの」の巻寄塁さん(30)は「朝ご飯プロジェクトの旗振り役は、ちょっと想像が付かない」としつつ「朝活講座の一環で、七間朝市に出ている野菜を使った料理教室をしてそのまま朝ご飯として食べてもらうとか、結び付けたらいいのでは」と、逆に提案をくれた。同社は商店主らが“職人技”を教える講座「匠(たくみ)の勧め@結の故郷」を展開しており、その発展型として実際に考えたいとも話した。

 朝活講座の舞台に設定した寺町通りには、15前後の寺が立ち並ぶ。寺を早朝から開放することについて、瑞祥寺副住職の長谷川道光さん(36)は「全部のお寺が足並みをそろえるのは難しいだろうけど、うちは全然できると思う。むしろやりたい」と乗り気になってくれた。善導寺副住職の大門哲爾さん(36)は「寺院を伝統の技の継承の場とするのはアリ」と理解を示しつつ「お年寄りだけが講師になるのではなく、鐘突きやお勤めなど寺ならではのこともしたい」と話した。

 大野市は昨年の観光入り込み客数が初めて200万人を突破し、観光面で絶好機を迎えている。市民全員が「関係者」となって、うまく連携を取り合えば大きな動きになるはずだ。

 ■記者はこう見る 実現可能性65%

 「天空の城」越前大野城、七間朝市といった大野市の観光資源の魅力を十分に味わってもらえるのは、朝の時間帯に限られる。むしろ、この点を前向きに捉えたいと考えた。

 「朝ご飯、やりたいね」という声は、まちでちらほらと聞こえていた。大きなハード整備は必要ない。アイデアと熱い思いを持った市民がいる時点で、実現可能性は低くないとみる。とはいえ、朝はそれぞれの生活が慌ただしいのも事実。あとは覚悟の問題なのかもしれない。

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