【越山若水】年間数百冊を読み解く書評家、岡崎武志さんは司馬遼太郎さんを人生の師と仰いでいる。本で見つけた気に入ったフレーズは、自家製の「司馬ノート」に抜き書きしているほどだ▼ある対談のあとがきで、司馬さんは「自己愛」に言及している。生物学的に自己愛のないものはなく、人間でも自己愛の強い人が多い。だがその人物にそれはなく「他人の創見に受信感度がよく、びっくりしたり敬意を感じたりする初々しさがある」と高く評価した▼「自己の中に自己だけが閉塞(へいそく)して詰まっている人」は、延々と自分の考えや体験を述べる。違う意見が出されても、それに同調するとか、自分の考えを軌道修正するとかはしない。その指摘に岡崎さんは賛同する(「これからはソファーに寝ころんで」春陽堂書店)▼政治の世界にも「自己愛型人間」と思われる人がいる。国会運営で強行姿勢が目に付く安倍晋三首相である。森友・加計学園や桜を見る会の疑惑では、民意に耳を傾けるどころか、自分に都合のいいことばかり話す。追及を受けるとイライラを隠さずヤジまで飛ばす▼さすがに検察庁法改正案は思うに任せなかった。背後に内閣の恣意(しい)的な人事構想が透けて見え、著名人や検察OBから非難の声が続出。内閣支持率も急落し、今国会の成立を見送った。自己愛型人間に必要なのは簡単なこと、他人を思う感受性である。

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