【論説】検察官の定年を延長する検察庁法改正案の今国会での成立が見送られることになった。ただ、政府、与党は法案を継続審議とし、今秋の臨時国会での成立を目指す構えで、あくまで先送りした格好だ。

 安倍晋三首相が法案の今国会成立を断念するに至ったのは、ツイッターで法案への抗議に同調する投稿が数百万に上るなど世論の批判の高まりを無視できなくなったからだ。ツイッターには新たなハッシュタグ(検索目印)「検察庁法改正案を廃案に」が登場し投稿が相次いでいるという。

 改正案は検察官の定年を現在の63歳から65歳に引き上げ、63歳を迎えた検事長や検事正など幹部にはポストを退く「役職定年制」を導入する。「束ね法案」として同時に閣議決定された国家公務員法改正案なども定年延長に関わるものであり、これら自体は長寿社会の流れに沿ったもので何ら問題はない。

 懸念されるのは、内閣が認めれば役職の最長3年延長も可能とする特例規定だ。時の政権が特例を使って都合のよい人物を幹部に残すことで、捜査の行方を左右することができる危険性をはらむ。政権の身内の犯罪には目をつぶり、政敵には手厳しく対処するといったことも起きかねない。

 森雅子法相は19日の閣議後記者会見で、特例規定の具体的基準を「なるべく早く示したい」と強調した。ただ、法改正の前段となった黒川弘務東京高検検事長の定年延長の際には「重大かつ複雑困難事件の捜査公判に対応するために豊富な経験・知識等に基づく指揮監督が必要不可欠」としか述べていない。野党からは「どの検事長にも当てはまる」と批判が上がった。

 検察官は首相をも逮捕できる「強大な権力」を持っている。それゆえ厳密な公正、公平さが求められ、同じ事件ならどの検察官が対応しても同じ結果を出す必要がある。「検察官一体」の原則と称され「余人をもって代えがたい」ということはあり得ないとされる。これまで定年延長の例外とされてきたのもこのためで特例自体がこの原則に反しているのは明らかだ。

 森友、加計学園問題や決裁文書改ざん、「私物化」疑惑の桜を見る会―など安倍政権はたびたび問題視された経緯がある。今回の問題で首相はインターネット番組で「法務省が提案した」と述べ、自身は無関係だと強調しようとする姿勢が批判を浴びている。

 国民は「安倍1強」の下、今も際立つ「おごり」体質を警戒している。政府がどんな特例基準を示しても「人事介入」の批判は免れず「廃案」しかない。まずは今夏、黒川氏が検事総長に起用されるか否か、多くの国民が注視している。

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