【越山若水】革新的なポスターで人気のある美術家、横尾忠則さんは病院との付き合いが長い。未熟児で生まれたのを皮切りに、度重なる交通事故、骨折、ぜんそく、難聴など入院歴は限りない▼ただそれを恨んでいるのかと思えば、そうでもない様子。近著「病気のご利益」(ポプラ社)に次のような一節がある。「病気に出会うことで、ぼくは生活や芸術を見直すことができた。感謝こそしないものの、病は神が差し出してくれた贈り物のような気がする」▼全治2カ月のむち打ち損傷で入院したとき。首や頭の痛さには閉口したが、めったに経験できない入院生活に胸が躍り、退院時には心身一新、別人になって世間を驚かせようと企てた。殺風景な病室の白い壁は自作ポスターで埋め尽くし、自分だけの聖域に改装した▼極め付きは、ブラジルの美術展の出品作に自信がなく発熱したとき。仕事から解放され、入院生活は新鮮だった。横尾さんは病室に100号のキャンバスを持ち込み、絵の制作に取りかかった。微熱はあったが、むしろ体中にエネルギーが湧き出すのを感じたという▼新型コロナに伴う県民の夜間・週末の外出自粛がきのう解除された。ただ県境をまたぐ移動抑制などは今月末まで続く。それまでの自由時間を、自分を見つめ直し新しい生活様式を確立するチャンスと考えれば、横尾さん流“自粛のご利益”になる。

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