新型コロナウィルスの感染者数・死亡者数が世界最多になった米国も5月に入り、「Re Open(社会活動の再開)」が焦点になっている。経済活動を一部再開した州が増える一方で、段階的な制限緩和をいつどのように始めるか、見定めている州もある。米東部メリーランド州知事も15日夕方、3月末から始めた外出禁止令を解除、自宅待機勧告に切り替えた。合わせて、第1段階として入場制限付きで小売店営業再開などが認められた。

トレジョで買い物を終えた買い物客。店の出口にはエコバックは感染リスクがあるため、代わりに店の紙袋を無償で提供することを案内板で説明している=2020年4月25日、筆者撮影

 だが今も、メリーランドの感染者数は1日千人を上回ることもある。人々の警戒心は強い。米紙ワシントン・ポストが州内で実施した調査では、「レストランの利用」に78%、「食料品店の買い物」もまだ44%の人がそれぞれ「不安」と答えている(5月6日付)。結局、私たちが暮らす郡など州の一部地域は、知事と話し合った結果、外出禁止令とスーパーなど日常生活に必要な店舗のみ営業できる従来通りの制限を継続することになった。

 週に1度買い出しに行く食品スーパーチェーン店『トレーダー・ジョーズ』でも、州が外出時に義務付けた通り、顔をマスクやバンダナで覆った買い物客が、6フィート間隔を開けるソーシャル・ディスタンシングをきっちり守って入店待ちの列に並んでいる。使い捨てゴム手袋を付けている人もかなりいる。

 このスーパーは、良質な食材とオリジナル商品を手ごろな価格で扱っていて、駐在や旅行客の日本人からは「トレジョ」の呼び名で人気がある。長女は大学で全米の消費者が1年間に最も多く購入する食品チェーンだと教わった。フレンドリーな接客で店内の温かい雰囲気も大勢の客が足を運ぶ理由になってきた。

 そして今は、「安全最優先」に変化した消費者心理に応えようと、買い物客が一目でわかる感染防止対策に乗り出している。例えば入り口では、店員が「待っていてくれてありがとう」の挨拶と同時に、手際よくアルコール消毒を目の前で済ませたショッピングカートを客に使用させることにした。

トレジョがあるショッピングセンターに設置されている電子広告では新型コロナ対策で6フィート離れるソーシャル・ディスタンシングが呼びかけられていた=2020年5月9日、筆者撮影

 特に混みやすいレジ周辺は、客とレジ係が距離を保つために動線を工夫した。誘導スタッフは、精算の順番がきた買い物客にレジ台手前に設けた線で一旦待っているよう案内する。レジ係がバーコードで価格入力を済ませた商品を袋詰めし、すぐに運び出せるようカートに移し終えた段階で客を呼ぶようにしたためだ。買い物客が感染防止で設置した透明のアクリル板を挟んで精算する間も、レジ係は客の正面から一歩離れることで、接触機会を大幅に少なくした。

 米国ではスーパー従業員による新型コロナ感染と死亡例の多さがたびたび報じられている。トレジョではさらに感染リスクを減らそうと、エコバックの持ち込みを断り、代わりに有料だった店の紙袋を商品の袋詰め用に無償提供する取り組みを始めた。

 遅かれ早かれ、ウイルスと共存しながら、社会を再生するという難しい段階への移行は避けられない流れだ。これからも、同じ店の空間で過ごす一人ひとりを守るために、私たちは行動を変容できるのか。経営者は、顧客がソーシャル・ディスタンシングを順守しながらも訪れたくなるように、安心感という付加価値を提供することかできるのか…。店の淘汰が進むであろうRe Open後の社会はさらに知恵を絞る必要に迫られている。(渡辺麻由子)

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 夫に同行し米国生活する筆者が現地の生活をつづります。子どもを通して見えてきた教育事情や働き方の違いなどを紹介します。

 ■渡辺麻由子(わたなべ・まゆこ) 元福井新聞記者。結婚を機に福井を離れ、退職。夫の留学で2012~13年米国マサチューセッツ州で生活し、帰国後フリーライター・編集者として活動。夫の転勤で18年カリフォルニア州、19年からはメリーランド州で暮らしている。ハイスクール2年生の二女と、カリフォルニア・ロサンゼルスに残り、大学に通う長女がいる。

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