江戸時代の瓦版に描かれた「アマビエ」(京都大学附属図書館所蔵)

 新型コロナウイルスの感染に関連し、疫病よけに効くとされる妖怪「アマビエ」がネットを中心に注目を集めている。アマビエなどを調査し、論文を発表している福井県文書館の長野栄俊さん(48)によると、アマビエのルーツは別の妖怪「アマビコ」にあるという。長野さんは「歴史とは少し違った意味合いを持って今、クローズアップされている」と語る。

⇒アマビエちなんだ菓子や酒が人気(D刊)

 アマビエは、長い髪にくちばし、うろこを持ち3本足をした半人半魚の妖怪。江戸時代に肥後(熊本県)の海に現れ、「病気が流行したら自分の姿を描いて人々に見せよ」と告げて海中に消えたとされている。新型コロナ感染の沈静化を願って注目を浴び、アマビエを独自に加工したイラストを会員制交流サイト(SNS)に投稿するなど話題が沸騰。厚生労働省の感染予防啓発サイトのアイコンとしても活用されている。

 ただ、長野さんによると、先の熊本の事象を捉えた記録は弘化3(1846)年発行の瓦版のみで、「海から現れた」との記述はあるが「自分の姿を描けば病から逃れられる」といった表現はない。この時期に大きな疫病が流行した記録もないという。

 一方、アマビエのルーツは「アマビコ」という別の妖怪にあるとみられ、アマビコに関しては全国に複数の記録が存在する。最古のものは天保14(1843)年の瓦版の写し。海から出現して疫病を予言し、その姿を書き写すと無病長寿の効能があると記されている。明治初期にコレラが流行した際にはアマビコの護符が販売されるなど、アマビコと疫病のつながりを伝える記録も数多い。

 福井県立図書館所蔵の江戸時代の書籍にもアマビコのことが記されている。「海彦(あまひこ)」と紹介され、描かれた姿は猿のような頭に足が3本。足の数と顔の向きだけはアマビエと似ている。

 病気から逃れたいという意味では「アマビエ」よりも「アマビコ」の“出番”だといえるが、なぜアマビエが注目されているのかは長野さんも分からないという。「女の子を思わせるアマビエはかわいらしく、人気アニメに登場するなど知名度も高い。ともあれ、苦しい暮らしの中で人々のちょっとした楽しみになり安らぎにつながっている。日本に妖怪文化があって良かった」と話している。

関連記事