【越山若水】「町が復興してゆく過程を見ていないから、私の脳裏には古い町の風物が鮮明に焼きついて幻の町のように私の中に実存している。(中略)福井の町で変わらないのは、空の色と二十年ぶりに接した人々の人情の篤(あつ)さだけであった」▼福井市出身の芥川賞作家、津村節子さんが1965年、里帰りした際の感想をしたためた随筆「幻の町」の一節(「ふくい文学の旅」朝日新聞福井支局編からの引用)。幻の町とは津村さんが育った昭和10年代の福井市だ▼戦災に次ぐ震災に見舞われ、幻の町を知る手掛かりが少ない中、県立図書館で常設展示されている「地図でたどる近代の県都福井」は興味深い。主に明治から昭和の市街地図が複数パネル化され、幻の町の一端を知ることができる。福井城の四重、五重の堀が次々と姿を消す様をはじめ、県庁や市役所、学校の移転なども見て取れる▼エッセー集「女の贅沢(ぜいたく)」(読売新聞社)に収められた「私の原風景」で津村さんは昔の面影をとどめるのは足羽山に足羽川の流れと城址(じょうし)の石垣の一部という▼県都デザイン戦略の座長を務めた都市計画の専門家、西村幸夫さんも自著「県都物語」(有斐閣)で津村さんと同じ3カ所の風致地区を取り上げ「願わくは福井城跡地区の存在感が増すような仕掛けを考えたい」と提言する。幻の町の歴史を知って、福井らしい面影は大切にしたい。

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