2009年3月、WBC決勝の韓国戦で決勝打を放つイチロー=ロサンゼルス(共同)

 来年3月に開催予定だったワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が、延期の見込みであるとアメリカのメディアが報じた。

 アメリカの関係者は「現状では、WBCの開催は優先事項には含まれない」とあっさりとしたコメント。ここにWBCのアメリカでの位置づけが凝縮されている。

 WBCは元々、メジャーリーグ機構と選手会の間で交わされた労使協定によって開催が決まった大会だ。

 つまり、アメリカが主導しているトーナメントであり、新型コロナウイルス禍が社会に大きな打撃を与えているアメリカでは、メジャーリーグのレギュラーシーズンの開幕が喫緊の課題だ。WBCどころではないのである。

 労使協定は2021年の12月に失効する予定で、WBCが存続するか否かは、新しい協定の内容次第となる。

 もしも大会の継続が決まったとしても、次回の開催は早くて2023年だという。

 2021年は春にWBC、夏にはオリンピックで野球が楽しめると思っていた日本のファンは、このニュースに大いにがっかりしたことだろう。

 第1回大会を取材した時から感じたのは、WBCを育ててきたのは東アジアの国々だということだ。

 第1回大会、日本対韓国をアメリカのエンジェル・スタジアムで見た時、観客のほとんどは韓国の応援だったが、数では劣勢の日本のファンも声援では負けておらず、スポーツに絶対必要な「対抗心」がみなぎっていた。

 日本と韓国は第1、2回大会で好勝負を繰り広げ、大会の「格」を上げるのに大いに貢献した。

 WBCへの思い入れが強いのは日本、韓国、そして台湾である。

 第3回大会はドミニカ共和国が優勝した。この大会あたりから、カリブ海地域出身の選手たちがナショナルチームで戦うことを楽しむようになっているのを感じ、大会がより充実を見せるようになっていた。

 そして前回の第4回大会ではアメリカが初優勝したものの、依然アメリカでのWBCの認知度は低い。

 よって、WBCの延期はアメリカにとっては大きな痛手にはつながらない。それよりも、東アジアの強豪の方が思い入れが強い分、失うものも大きい。

 こうした状況では、発想の転換が必要ではないか。

 ヨーロッパに比べれば、東アジアの新型コロナウイルスの感染拡大は抑え込まれている。すでに台湾、韓国ではプロ野球が開幕した。

 本来、WBCが行われる時期だった来年の3月、状況が落ち着いていれば、東アジアの国々による対抗戦を始めてもいいように思う。新型コロナウイルス禍を乗り越えての新しい大会だ。

 WBCがなくなったことを嘆くのではなく、新たな価値を創造するチャンスと捉えることはできないだろうか。

生島 淳(いくしま・じゅん)プロフィル

1967年、宮城県気仙沼市生まれ。早大を卒業後広告代理店に勤務し、99年にスポーツライターとして独立。五輪、ラグビー、駅伝など国内外のスポーツを幅広く取材。米プロスポーツにも精通し、テレビ番組のキャスターも務める。黒田博樹ら元大リーガーの本の構成も手がけている。

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