【越山若水】新型コロナ感染拡大に伴う緊急事態宣言を受け、休館中の全国の博物館や美術館、図書館について政府が再開を認める方針を示した点は、ほっとした。ただ、この間多くの展覧会が中止になったのは残念だった▼臨時休館していた福井市愛宕坂茶道美術館は、きょうから再開される。幸い、閉幕予定だった特別展が31日まで延長されることになった。日本にかつてあった、泡を立てるお茶「振茶(ふりちゃ)」を取り上げて、全国に残る数少ない「振茶の里」を紹介している▼特別な茶葉があるわけでも抹茶でもなく、番茶や玄米茶など普段飲むお茶に少量の塩を入れ、茶せんで泡立てる。味がまろやかになり、見た目もよくなる効果があるという。冠婚葬祭や近所の集まりなど、庶民の親睦の茶として飲まれた▼福井県では若狭小浜の地誌に記されているが、江戸時代後期には廃れていたようだ。展覧会では、北は新潟県の「バタバタ茶」、南は沖縄県の「ぶくぶく茶」まで7カ所の振茶を紹介している。用いる道具や茶の種類、お茶請けにする食べ物はさまざま。地域に根付いた大衆文化といった趣だ▼新型コロナにより、人が集い、お茶を楽しむ機会が減った。コミュニケーションの多様化した現代、振茶の継承はなお大変なようだ。だが人を和ませ人を思いやる茶の精神は貴重だ。コロナ禍の終息後も、伝統を絶やさないでもらいたい。

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