福井県のある企業は3月中から業務用車両の消毒に当たっており、社員の感染が確認されて以降は毎日実施している

 新型コロナウイルスに役員や社員が感染した福井県内の企業は、多くがその事実を自社のホームページ(HP)などで明らかにしている。福井新聞の調べでは、病院なども含めると公表した企業、団体、施設は約40に上るが、会社や社員たちが誹謗(ひぼう)中傷や差別的な対応に遭うケースが相次いだ。危機管理の専門家は「公表は感染拡大防止に向けて評価されるべき行動」と訴え、社会に冷静な対応を呼び掛ける。

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 社員の感染を確認した嶺北地域のある企業は、翌日にHPで公表した。同社幹部は「感染拡大を防ぐため、出せる情報は最大限出した方がいいだろう」と迷いはなかった。多少の批判や誹謗中傷も覚悟の上だった。

 しかし、周囲の反応は予想以上だった。業務は縮小したが完全に休業することは難しく、社員たちは行く先々で嫌な顔をされたり「あなたは大丈夫なのか」と疑われたりしたという。

 社員の一人が取引先の担当者に「もう来ないで」と突き放され、上司があらためて連絡を取って取引の継続を確認したことも。取引先は「会社としてではなく、担当者個人の発言だった」と説明したという。

 幹部は「取引先に不安を与えてしまったのは申し訳ないが、社員たちがばい菌扱いされているようなケースもあり、とてもつらい」と打ち明ける。

 別の嶺北の企業は、感染した従業員が働く事業所まで公表したが、違う事業所で働く従業員の子どもが、保育園から登園を拒まれたという。同社幹部は「全く関係のない従業員に対して、過剰な対応だと感じた」と残念がる。

 予想以上の反応だったという1社目のケースでは、企業は感染した社員の詳しい勤務状況などもHPに開示し、「よく公表してくれた」と言ってくれる取引先もあったという。デメリットもあったが、幹部は公表したことについて「後悔はしていない。企業としての社会的責任がある」と言い切る。縮小していた業務の本格化に向けて不安は大きいが「危機管理体制を見直し、信頼回復に努めたい」と気持ちを切り替える。

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 企業や社会の危機管理に詳しい横浜国立大の野口和彦客員教授は「企業が顧客や社会を守ろうと迅速に情報を開示することは重要」とした上で「企業の公表に対して社会や市民がどういう反応をするかも、社会運営にとって極めて大事」と指摘する。

 「感染症対策を怠っていたなら批判されても仕方ない面はあるが、公表したことに関しては評価されるべきだ。市民はその視点を誤ってはいけない。公表したことで企業が誹謗中傷に遭うと、事実を公表しなくなってしまう」と警鐘を鳴らす。「今回のウイルス禍は初めてのことで、企業も社会も市民も学んでいく必要がある」と話している。

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