【越山若水】「甚六郎りんじゆたしかに自筆に書置いたされ、年寄五人組の加判たのみ、十七日過ぎて内蔵をひらき、親類中立会是をあらため、それぞれに相渡申せとのいげん」▼浮世草紙で知られる井原西鶴が江戸町人の生活ぶりを描いたとされる「万(よろず)の文反古(ふみほうぐ)」巻三「明けて轟(とどろ)く書書の箱の段」から、当時の遺言書は自筆で書かれ、年寄五人組の判が必要だったことが読み取れる。「はんこと日本人」(大巧社)の著者、門田誠一さんは「はんこは江戸人の生の幕引きの際にも重要な役割を演じていた」と指摘。はんこは江戸時代に最も普及した▼今日では生活に溶け込み、はんこに愛着を感じている人は多いだろう。だが新型コロナの感染拡大に伴い、電子化の機運が急速に高まってきている。「在宅勤務なのに印鑑を押すためだけに出社した」といったケースもあり、テレワークの障害だという理由らしい▼政府の規制改革推進会議は、行政手続きや民間契約に必要な本人確認を見直し脱はんこ、電子化していく具体策を月内にまとめる方針とか。竹本直一IT相は電子化に冷ややかだったが、態度を軟化させているようだ。人の接触を減らす手段につながるだろう▼ただ実務上で推進される電子化の半面、天皇の御名御璽(ぎょめいぎょじ)をはじめとして学校の賞状や卒業証書など、歴史の中で培われたはんこ特有の文化は継承されるべきだろう。

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