米国メリーランド州の二女の学区のスクールバス。生徒を再び送迎するのはいつになるのだろう=2020年4月18日、筆者撮影

 全米のほとんどで新型コロナウィルス対策による外出禁止令が継続中だ。そのため、多くの義務教育(小中高)の学校がオンライン授業などのリモート教育に切り替えている。二女の高校を管轄する米国メリーランド州の郡教育委員会も教育計画に組み直し、3月末から導入に踏み切った。

 郡教委によれば対象となる児童生徒数は約17万人にのぼる。導入にあたっては2週間で新計画を作り、親のサポートのもと、小中高それぞれに応じた新システムへの移行ができたか確認する期間を1週間設けた。リモート教育を受ける環境が家庭にない生徒にはノート型パソコンを貸し出し、通信会社の無料サービスを紹介することで対応した。

 二女の場合は、自宅から教師がオンライン会議アプリを用いて授業や生徒とミーティングを開くこともあれば、YouTubeに解説動画がアップされていることもある。メールで質問を受け付ける時間が決められていて、教師も生徒も試行錯誤しながら、いろいろなツールを並行利用して取り組んでいるようだ。

 感染症対策を担う米疾病対策センター(CDC)は、新型コロナの学校対応をガイドラインにまとめていて、休校時も「確実に教育を継続すること」を明記し、実行可能なe-ラーニングプランの実施などを指示している。今回の事態に躊躇なくリモート教育の方針を示すことができたのは、教育現場でハード・ソフト両面が充実していることはもちろんのこと、かなり以前から運営環境面でもIT化の構築が進んでいたからだろう。

 8年前の初渡米で長女が入ったボストン近郊の中学は、日々の課題や小テストも含め、成績に関するすべての個人データがシステム管理されていて、生徒と保護者がいつでもアクセス可能になっていることに驚いた。

 日本ではIT授業や総合学習に限られていたパソコンを使ったレポート作成やパワーポイントによるプレゼンテーション資料の作成は、当時から教科の課題に取り入れられていた。小学3年だった二女には教科書はなく、まだ普及し始めだったiPadが社会や算数の学習で積極的に用いられて、指定された学習サイトで計算問題をどんどん進めることが宿題だったことが印象深かった。

 今は再び米国生活を送ることになったが、教育現場はさらに進化していると痛感している。全米各地で「科学」「テクノロジー」「エンジニアリング」「数学」の英語の頭文字を取った「STEM教育」をスローガンにした人材育成が盛んだ。二女によれば、授業時間の多くが各クラスに置いてあるノート型パソコンを使った作業に割かれているという。これまでも課題の連絡や提出は郡教委やグーグルの学校管理システムを用いていたこともあり、リモート教育を始める下準備は十分整っていたようだ。

 翻って日本の義務教育現場は“コロナ危機”にどう対処するのだろう。今の状況では個人配布の教科書よりも電子化された教材の方が合理的に使えるかもしれない。例えば低学年の子供たちが定着のためにかなりの時間を割く計算や漢字の練習問題などは、先行して既存の学習アプリを使用し、その間にほかの部分の教育プランを作り直すことなどが可能かもしれない。できることから考えてもいいはずだ。

 日本は災害のための長期休校のリスクも高い国だ。今回教育現場がリモート教育のために柔軟な対応をして得る知見は、新型コロナ終息後に訪れる新しい価値観で構成された社会でも必要になるはずだ。「確実に教育を継続すること」は、後回しにされていないだろうか。(渡辺麻由子)

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 夫に同行し米国生活する筆者が現地の生活をつづります。子どもを通して見えてきた教育事情や働き方の違いなどを紹介します。

 ■渡辺麻由子(わたなべ・まゆこ) 元福井新聞記者。結婚を機に福井を離れ、退職。夫の留学で2012~13年米国マサチューセッツ州で生活し、帰国後フリーライター・編集者として活動。夫の転勤で18年カリフォルニア州、19年からはメリーランド州で暮らしている。ハイスクール2年生の二女と、カリフォルニア・ロサンゼルスに残り、大学に通う長女がいる。

 ⇒今後の教育計画、リモート教育は?

 ⇒強制的に市民はオンライン社会に退避(コラム「人生は旅」)

 ⇒新型コロナ、米国の感染拡大防止策(コラム「人生は旅」)

 ⇒米国コミュニティーカレッジという選択(コラム「人生は旅」)

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