死んだら棺桶に入れて欲しい本がいくつかある。2008年に刊行された「叶恭子の知のジュエリー12ヵ月」(以下「知のジュエリー」)もそのうちのひとつだ。

 正体不明、パイオツカイデー、芸能界では若干イロモノ枠の立ち位置だった叶姉妹(意見には個人差があります)。その「姉」が小・中学生に向けたメッセージを一冊にまとめたことを知り、当時冷やかし半分で手に取った。しかしそれは、いい意味で大きく裏切られる。彼女が綴る言葉は、あまりに自由で鮮やかで、深い輝きを放っていたのだ。社会に出て三年目。まだまだ萎縮しきっていた25歳は、以来その本をお守りのように通勤鞄に忍ばせ、行きの電車や帰りのタクシー、休憩時間に開いては、呪文を唱えるように黙読していた。この本を読めば強くなれるような気がしていた。

 それから12年の時を経て、発売されたのが本書である。この冒頭で叶は「知のジュエリー」について触れている。それは発売以降、長年にわたって各界の著名人からも大絶賛を受けたということ。そして彼らからの熱烈なリクエストに応え、今回新刊が誕生したこと。つまり本書は、若者たちへ向けた既刊本を、大人たちに向けてバージョンアップさせたもの、ということになる。

 たしかに本書のスタイル−−叶の格言と、読者からの「お悩み相談」で構成されている−−は似ているし、かつて唱えていた呪文も再掲されている。そのまま流用してんのかーい、と思わなくもなかったが、違う。彼女は12年前と同じポリシーを貫いているのだ。

「『調和』とは、『媚びること』ではけっしてないのです」、「『メリットがあるかないか』で、一緒にいる人を決めてはなりません」、「不可能を可能にする。しかし、その逆はあってはなりません」、「人生に二度と同じ日はないのですから」……。

 それらの言葉は、当時とはまた異なる色で読む者に届く。いや、開くたびに違う色で飛び込んでくるのだ。日によって琴線に触れる言葉が違う。それは、読書を通して自分と対峙するような時間だ。とても不思議で、しかし楽しい冒険のようでもある。

「さあ、お顔を上げましょう」。最後に叶はこう語っている。

「人間の生き生きした感情、ひいては、それを表す『表情』や『しぐさ』は、未知なものを恐れずに、くり返し何かを経験したり、体験したりすることでしか、手に入らないものなのです。ですから、さあ、お顔を上げましょう」と。

 この言葉に息を飲んだ。愛に溢れる叶恭子は、ゆえに厳しく私たちに問う。大人になったあなたは、果たして未知なものを恐れずにいたか、何を経験したか、それをどれだけ重ねたか。私は、胸を張って言えるだろうか。私は何ができるだろうか。私はためらうことなく顔を上げられるだろうか。

 それは、今この瞬間を悔いなく生き、それを積み上げてきた叶恭子だからこそ言えることだ。いや、私にだってある。絶対にある。何を掴んだか、何を手放したか。そうしてこれからまた、未知なる自分自身との対話が始まっていくのだ。

(ポニーキャニオン 2000円+税)=アリー・マントワネット

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