【越山若水】「いろはがるた」でいの一番に来るのは、ご承知のように「犬も歩けば棒に当たる」である。ただ意味するところは幸運説と災難説の二通りがあり、今もなお解釈は分かれている▼「図説ことわざ事典」(東京書籍)によると、江戸時代中期の「絵本譬喩節(たとえのふし)」(喜多川歌麿)では、赤犬が魚屋の隙を突いて獲物をせしめるが、店の男が長い棒で懲らしめようとしている。思いがけない好事に出合うことか、逆に災禍に遭遇することか判然としない▼幕末の浮世絵では、歌舞伎の有名な役どころ白井権八が犬を切り捨てる残酷な場面が描かれる。一方で、明治初期の双六(すごろく)には子どもが犬に餌を与える絵柄。その傍らに「しめたしめた歩けば果報にありつく」と犬のセリフが添えてある。やはり白黒付けるのは難しい▼新型コロナウイルスの感染防止の目安とされた3週間が過ぎた。政府の専門家会議は爆発的な感染拡大の可能性があるとしながら、感染のない地域では一斉休校や文化施設の閉鎖、イベント自粛を解除してよいと提言した。社会や経済への影響を考慮した措置だろう▼春分の日も過ぎ、そろそろ行楽シーズンを迎える。とはいえ、まだまだ終わりの見えないコロナ禍である。この情勢下「犬も歩けば棒に当たる」は災難説と受け止めるのが賢明か。あと少しの辛抱だと信じたいが、落ち込む景気の先行きが気にかかる。

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