【論説】千葉県野田市の小学4年生、栗原心愛(みあ)さんを虐待し死亡させたとして、傷害致死罪などに問われた父親の勇一郎被告の裁判員裁判で千葉地裁は懲役16年の判決を言い渡した。

 被告は「罪は争わない」「しつけの範囲を超え深く後悔している」などと傷害致死罪の成立を認め謝罪する一方、心愛さんが食事を与えられず風呂場に立たされたり、冷水のシャワーをかけられたりするなど、被告からさまざまな虐待を受けていたと述べた母親の証言をことごとく否定した。

 心愛さんが2017年11月に学校アンケートで「お父さんにぼう力を受けています」と記したことに関しても「心愛がうそをついた」と言い切り、「私は事実しか話していない」と反論し主張を曲げなかった。普段のしかり方を問われ、たたくなどの暴行は一度もなかったとも述べていた。

 判決は被告の言い分を「信用できない」とし「尋常では考えられないほど陰湿で凄惨(せいさん)な虐待。心愛さんの人格や尊厳を全否定した」と強く非難。亡くなった後の裁判でも心愛さんを貶(おとし)めた罪は重く、従来の量刑を大幅に超えるものとなった。傍聴した識者は「心愛さんは今も虐待を受け続けている」と表している。

 この事件では、心愛さんが学校の担任や児童相談所の職員に繰り返し虐待を訴えていた。だが、児相が判断を誤り一時保護を解除したり、市教委の担当者が威圧的な態度の勇一郎被告に学校アンケートの写しを渡したりするなど対応ミスを連発。救えたはずの命を救えなかったと厳しい批判が噴出した。

 政府は児相の体制強化や親の体罰を禁止する立法措置などに動く中、昨年2月には1カ月以内に虐待事案の緊急安全確認を行うと表明。しかし、その2カ月後に札幌市の児相は虐待通告を受けながら安全確認を怠り、2歳女児が衰弱死する事態を招いた。今年2月には神戸市で真夜中に児相を訪ねた小6女児が追い返される不祥事も起きた。

 警察庁によると、昨年1年間に虐待事件で被害に遭った18歳未満の子どもは過去最多の1991人で、命を落としたのは心愛さんを含め54人に上った。保護者2024人が摘発された。身体的虐待が被害の8割以上を占め、亡くなった54人は無理心中などを除き傷害致死が11人、殺人と保護責任者遺棄致死は各6人、重過失致死が2人だった。

 心愛さんは亡くなる3カ月前に書いた自分宛の手紙に「未来のあなたを見たいです。あきらめないで下さい」とつづっていた。子どもが発するSOSに、一般市民も含め一人一人がきちんと向き合わなければ、悲劇はまた起きる。そのことを肝に銘じたい。

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