【越山若水】江戸時代末期、「アマビエ」と呼ばれる妖怪が肥後(熊本県)の海に出現した。長い髪にくちばししを持ち、うろこがあり3本足。「病気が流行したら自分の姿を描いて人々に見せよ」と告げて海中に消えた。瓦版に残る話だ▼それが今、再び注目され、ツイッターなどSNSで話題になっている。新型コロナウイルスの沈静化を祈る人たちがアマビエを独自に加工したイラストを投稿しているのだ。ユニークなアマビエがネット上に次々出現し、にぎやかだ▼実は、各地に残るアマビエのルーツとみられる妖怪が越前の豪農の文書に記されていた。こちらは「アマビコ(海彦)」といい、越後(新潟県)に出現したとする。福井県文書館の長野栄俊さんが以前、「予言獣アマビコ考」と題して「若越郷土研究」に論文を発表した▼長野さんによると、同じような妖怪の記録が全国に十数例残る。その姿を「見る」と御利益が得られるという気持ちが人々にあり、さまざまな情報を「書き写す」行為が流行していた。コレラなどの疫病から逃れようと図像を書き写したのだろう▼妖怪が消えて百数十年後。とうとう、県内からも新型コロナウイルスの感染者が出た。江戸時代と違って、現代は見えない敵と闘う確かな情報と科学という武器がある。とはいえ「コロナ疲れ」の人々を元気づけてくれるアマビエのような存在も欲しい。

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