【越山若水】もし「緑の指」と「茶色の指」があるなら、私は間違いなく後者である―。翻訳家でエッセイストの岸本佐知子さんが「ひみつのしつもん」(筑摩書房)でそんな話を書いている▼アボカドの種に爪楊枝(つまようじ)を刺し水に漬けておくと発芽するという。親戚のおじさんは緑色の葉が茂る大木に育てたが、岸本さんは6回挑戦して見事に全敗。ゼラニウムの挿し木やスイセンの球根も結果は同じ。「緑の指」のおじに対し、私は「茶色の指」だと落胆する▼実は、英語に「グリーンフィンガーズ」という言葉がある。植物を育てる特別な才能のことを意味し、同名の英国映画が2000年に公開された。更正刑務所で庭師になろうと奮起した5人の受刑者の実話に基づいている▼所内の庭園造りから始め、近隣の貴族の館のガーデニングを任されるまで腕を上げた。最終的に王立園芸協会のフラワーショーにも出場した。花の美しさと命の尊さを知った囚人たちは「緑の指」で自立を果たしたという▼仲春を迎え、野に山に緑が映える時候になった。県内でもいよいよ農作業が本格化する。市街地でも里地里山でも、野の草花や園芸植物などグリーンに満ちた地域には安らぎがある。「茶色の指」ならぬ、自然をいたわる「緑の指」の持ち主でありたい。

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