【越山若水】劇作家の別役実さんが亡くなった。電信柱やベンチ、バス停のある舞台で、登場人物が奇妙な会話を交わす。日本に不条理劇を定着させ、アマチュア劇団もこぞって上演した▼ある日、別役さんの元に一冊の上演台本が届いた。タイトルは「やめえ」、作者は別役さんの名だ。心当たりがなかったが読んで気付いた。かつて「病気」という戯曲を書いた際、東北地方の劇団から上演したいとの申し出があった。その時、「そちらの方言に直しては」と提案し、届いた台本だった▼病気の「やまい」がなまって「やめえ」。その言葉の持つ奇妙な迫力に、感心したという。別役さんは2009年、福井市出身の名優宇野重吉さんにちなみ、全国から戯曲作品を募る「宇野重吉演劇賞」が創設された際、審査委員長を務めた。本紙のインタビューでこう語っている▼地方で標準語の芝居をすると、観客は聞き耳をたて前かがみになる。言葉の意味だけ追いかけようとするから、せりふのリズムの心地よさとか感じ取らない。方言だと姿勢が緩やかになり体全体が言葉を吸収する▼方言は手触りが確かな肉声であり、言葉以上のものが伝えられる。自分たちの言葉や地域独特の感性を大事にすることでもあり、まちおこしにつながる。別役さんはそう考えていた。「近代において痛めつけられた方言」(別役さん)の芝居が見たくなった。

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