【越山若水】通勤の道すがら、ちらほらと咲くヤマザクラを見かけた。記録的な暖冬のせいか、今年は春の訪れが早かった。本紙でも1月下旬にフキノトウ、先週はツクシの写真が紙面を飾った▼「土筆(つくし)煮て飯くふ夜の台所 正岡子規」。県内でツクシを食べる習慣はあまりないが、西日本では早春の味覚として好まれ、あえ物やつくだ煮、天ぷらなどでいただく。岡山県に行ったとき、卵とじを出されたことがある。ほろ苦さとシャキシャキ感が印象的だった▼一方、フキノトウは県内でもおなじみだろう。野趣に満ちた独特の苦みが特徴で、フキ味噌(みそ)や天ぷらなどで楽しむ人は多い。「蕗(ふき)の薹(とう)の舌を逃げゆくにがさかな 高浜虚子」。師弟関係にあった子規と虚子だが、どちらも春を呼ぶ山菜類が好物だったのかもしれない▼これらの植物は昔から薬草としても重宝された。ツクシの別部位のスギナには、痰(たん)を切り咳(せき)を鎮める効果のほか利尿作用がある。フキノトウも痰切りや咳止めに加え、消化促進や食欲増進、血止めにも用いられた(「身近な『くすり』歳時記」鈴木昶著、東京書籍)▼新型コロナウイルスの感染拡大を受け、選抜高校野球などイベント中止が相次いでいる。学校の長期休校や景気失速も相まって、日本は“コロナ疲れ”に陥っている。薬効はともかく、野趣に富む早春の味わいを楽しみ、英気を養うのも一考である。

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