【論説】「誰も話題にしていない」。岩手、宮城、福島3県の被災者に対する共同通信社のアンケートで、こんな回答があったという。東京五輪が地域の復興や生活再建に役立つかとの問いに100人中85人が「期待しない」「どちらかというと期待しない」と答えた。

 東日本大震災から、きょうで9年。防潮堤や復興支援道路などハード面の整備は確かに進んだ。一方で沿岸部で住宅や店舗などを再建するかさ上げ地は空き地が広がり、震災前のにぎわいやコミュニティーが復活したとは言い難い。雇用の場を得られない人や高齢者の中には、日々の生活に窮するケースも多い。

 政府が「被災地の復興の後押し」と掲げる東京五輪・パラリンピックは4カ月余りに迫った。26日には東京電力福島第1原発事故の際、対応拠点となった福島のサッカー施設Jヴィレッジから聖火リレーがスタートする。本番では福島、宮城で野球やサッカー、ソフトボールが行われる。

 アンケートに応じた被災者の中には「震災を世界に伝える機会になる」などアピールの場と捉える人もいる。新型コロナウイルス禍が広がる中で、聖火リレーは観客の制限などがなされる見通しだが、聖火が通る道のすぐそばに住民がいまだに帰れない土地があることを忘れてはならない。

 「海外の人が東京から足を延ばし、被害を感じてくれれば」。被災者の一人はこう答えている。原発事故が招いた負の側面をありのままに見てもらうことも「復興五輪」の意義だろう。安倍晋三首相は「復興は着実に進んでいる」と強調しているが、福島では今なお約4万8千人が避難を余儀なくされている。

 気がかりなのは、今年3月末には避難者への支援が打ち切られることだ。9年を経て避難先で生活再建を果たした人が多いからだろうが、昨年3月の福島県調査では、支援打ち切り後、住宅確保の見通しが立たない世帯は約5割に上った。「五輪をめどに切り捨てられるのではないか」と危機感を抱いている人も少なくない。誰のための「復興五輪」なのか疑問が残る。

 福島の現状は、原発集中立地県である福井県民も関心が高いはずだ。県内の原発を巡っては、関西電力幹部の金品受領問題や、日本原電敦賀2号機での安全審査データの書き換え問題といった不祥事で、県民の信頼は低下する一方だ。四国電力伊方原発では制御棒の引き抜きトラブルや使用済み燃料プールの冷却停止など異常事態も起きている。

 政府が「世界一厳しい」とする規制委員会の新規制基準に適合しても、運転を差し止める判決が出るなど「訴訟リスク」もつきまとう。関電高浜3、4号機などはテロ対策のために義務付けられた施設の設置遅れから停止を迫られる。

 首都直下地震や南海トラフ地震のリスクが声高に叫ばれているが、福井県民もいつでも当事者になり得ることを肝に銘じ、福島をはじめ被災地の教訓に学び続ける覚悟を持ち続けたい。

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