【論説】肺炎を引き起こす新型コロナウイルスの感染拡大への不安などから、東京市場の株価は約1年2カ月ぶりに2万円台を割り込み、アジア市場でも大きく下落した。世界同時株安はとどまるところをしらない様相を呈している。

 新型コロナは当初、中国を中心とした東アジアの問題だと受け止められてきたが、ここに来て欧州や米国でも感染が急拡大してきたことで「対岸の火事ではない」との危機感が強まっている。市場内にあった「流行は長引かない」という楽観論は後退。2008年に起きたリーマン・ショック級の経済的打撃を恐れる声も出ているという。

 経済成長第一を掲げてきた安倍晋三政権は好調な海外景気を追い風に、企業業績の伸長による賃金上昇や消費の拡大、さらなる企業活動の活発化を目指してきた。だが、現状は中国からの部品調達網が寸断しているほか、安倍首相の突然のイベント自粛要請で消費は冷え、製造業、非製造業ともに収益減は避けられない情勢にある。

 震源地である中国の経済は対米貿易摩擦の影響でただでさえ減速しているところにブレーキがかかり、今年1~3月の実質国内総生産(GDP)成長率は5%を大幅に下回るのではないかとの見方が出ている。中国を最大の貿易相手国とし、中国からの訪日外国人客が3割を占める日本にとって悪影響は甚大だ。

 日本では20年春闘が本格化しているが、経営側が賃上げに消極姿勢になるとの観測も出ている。需要が大幅に減るという危機意識から企業が経費削減に動いて、非正規労働者らにしわ寄せが及んで仕事が少なくなるなど失業率が上昇する懸念も否定できない。

 首相はイベント自粛や学校の一斉休校要請に続き、中国と韓国からの入国制限の強化を打ち出し、9日から実施された。中国の習近平国家主席の訪日延期発表にあわせて表明した格好だが、遅きに失したと言わざるを得ない。検査態勢の不備などを含め政府の対応の遅れが投資家心理を悪化させた一因にもなっている。

 政府は19年度予算の予備費2700億円を原資とした対策をきょうにも取りまとめる。ただ、野党などからもそれで十分なのかといった疑問が出ている。日本経済の腰折れを防ぐには20年度予算案の早期成立は欠かせないが、さらなる財政出動も早急に打ち出す必要がある。これ以上の対応遅れがあってはならない。

 民間機関研究員は「東京五輪・パラリンピック中止のシナリオがささやかれている。そうなれば失われたものは取り戻せない」という。首相は新型コロナと闘う強い決意を、棒読みすることなく示すときだ。

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