【越山若水】「俺がルールブックだ」―。この有名な言葉を残したのは、プロ野球の審判員で、野球殿堂入りも果たした二出川延明(にでがわのぶあき)さんである。1959年7月19日、大毎オリオンズ対西鉄ライオンズ戦での出来事だ▼八回裏、大毎の攻撃で送りバントをつかんだ投手が二塁に送球。微妙なタイミングだったが二塁塁審は走者の足と同時とみて「セーフ」と判定した。「同時はアウトでは」と納得のいかない西鉄の三原脩監督は審判控室に出向き二出川さんに「ルールブックを見せてくれ」と迫った。二出川さんはこれを拒み、冒頭の趣旨の発言をしたと伝わる▼野球規則では、アウトは走者が塁に触れる前に野手が塁に触れた場合としている。記述はないが、同時の場合は「セーフ」と解釈できるわけだ。二出川さんの解釈はルールブック通りだった▼最近の政界をみるにつけこの言葉を思い出す。まるで「俺がルールブックだ」といわんばかりの発言が聞こえてくる。東京高検検事長の定年延長を巡る問題である。検察庁法は検察官の定年を63歳と明記し、定年延長規定はない。そこで国家公務員法の延長規定が「適用されると解釈することとした」と安倍晋三首相。だが、適用外としていた政府見解を覆した説明は後付けとの見方もある▼野球ではルールに反した判定を「誤審」という。安倍首相の解釈は、後世どう判定されるのだろう。

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